山田風太郎とせがわまさき「バジリスク」に見る真実の愛とは?

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「愛する者よ、死に候え」で始まるあまりにも悲しい物語

あなたは「山田風太郎」を知っていますか?昭和の日本を代表する娯楽小説家の一人として名を馳せ、特に「魔界転生」や「忍法帖」シリーズに代表される大衆小説で高い人気を博し、奇想天外なアイデアから紡ぎ出される物語は没後、15年が経った今でもファンの心を捉えて離しません。そんな山田風太郎の代表作の一つ「甲賀忍法帖」を原作とし、せがわまさきが独特の美麗なタッチでコミカライズした異色時代劇が「バジリスク~甲賀忍法帖」です。

徳川家康により解かれた「不戦の約定」

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世継ぎ問題を解決するため、家康が出した解決策とは

慶長19年4月、駿府城にて天下人・徳川家康は、徳川忍組組頭・服部半蔵と、剣術指南役・柳生宗矩をを従え、忍者同士の仕合を観覧していました。「甲賀卍谷衆」と「伊賀鍔隠れ衆」、四百年に渡って争い続ける双方でしたが、先代・半蔵が定めた不戦の約定により、表向きには和睦の道を歩んでいました。そんな両者に対し、家康はブレーンの南光坊天海の助言のもと、世継ぎ問題のために命をかけた勝負をしてほしいと伝えます。約定さえ解かれれば今すぐにでもと応える甲賀の頭領「弾上」と、伊賀の頭領「お幻」。それを受けた半蔵は、その場で約定を解き、双方10人ずつの代表が戦い、甲賀が勝てば次子・国千代が、伊賀が勝った場合は長子・竹千代が三代目の徳川家将軍となる取り決めがなされ、物語は始まります。

十人対十人・想像を絶する戦いが始まる

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双方それぞれが人知を超えた特殊能力の持ち主

家康は弾上とお幻、それぞれに巻物を渡し、双方の代表となる十人の名を記すように命じます。そして「この秘巻を持って生き残った者を勝者とし、一族千年の永禄を約束せん!」と伝えるのでした。同じ頃、甲賀と伊賀の国境で逢瀬を交わす男女がいました。弾上の孫「甲賀弦之介」と、お幻の孫「朧」。二人は双方の跡取りにして、将来を誓い合った間柄であり、あとは祝言の日が決まるのを待つばかりという幸せな日々を送っていたのです。駿府城外、安倍川のほとりで弾上とお幻は、先ほど仕合っていた甲賀「風待将監」と伊賀「夜叉丸」にそれぞれ巻物を託し、里へ急ぎ戻るよう命じます。そして対峙した弾上とお幻は、互いの孫の運命を自分たちの過去と重ね、嘆きます。そう、二人もかつて愛し合いながらも一族の掟から結ばれることのなかった過去を持っていました。そして、互いの術を駆使して戦い、相討ちとなった二人の亡骸は安倍川へと流れさってゆくのでした。過去に想いを馳せ、寄り添う形で…。

四百年に渡る怨恨に終止符を打つはずだった二人

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二人の想いとは裏腹に陰では壮絶な戦いが始まっていた

朧と弦之介を除く、それぞれの忍者たちは和睦など有り得ないと日々考えており、今回の君命を幸いとばかりに陰で壮絶な戦いを繰り広げ始めます。一人また一人と倒れ、巻物から名前が消されてゆく中、双方頭領同士である朧と弦之介は何も知らされず、伊賀の忍者たちは彼を倒す絶好の機会とばかりに伊賀の里へと招きます。何も知らない朧もこれを喜び、伊賀の鍔隠れ谷・お幻屋敷へ配下の者とともに泊まる弦之介でしたが、その間も甲賀卍谷から彼の身を案じた忍者たちが伊賀へと向かいます。戦いが激化してゆく中、犠牲者を出しながらも伊賀潜入を果たした配下の者たちから巻物を受け取り、弦之介はようやく事態を把握します。同じように事態を把握して愕然とする朧をよそに、弦之介を倒すべく急襲する伊賀忍者たちでしたが、凄まじい術でこれを一蹴した彼は、配下の忍者たちとともに甲賀卍谷へと帰ってゆくのでした。泣き崩れる朧を残して…。

愛し合う二人が互いに持つ無敵の能力

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弦之介の「瞳術」は襲いかかる相手を自滅させる

弦之介の「瞳術」と同じように、朧も無敵と言える能力を生まれながらにして備えていました。それは「破幻の瞳」と呼ばれ、敵味方の区別なく、見るだけであらゆる忍術を破り、無効化させてしまうというものです。伊賀忍者が弦之介を急襲した際、彼女はあろうことか配下の忍者が繰り出す術を破り、弦之介の命を救います。腹心の部下より厳しい糾弾を受ける朧でしたが、どうしても弦之介とは戦えないという彼女は、自ら、目が七日七夜閉じて開かなくなるという秘薬「七夜盲」を目蓋につけて能力を封印してしまうのでした。双方の様々な思惑が交錯する中、弦之介もまた朧と同じように「七夜盲」で瞳術を封じられてしまいます。そんな中、徳川竹千代の乳母・後に春日局呼ばれる「阿福」が介入し、事態はさらに混迷を深めてゆきます。

朧、そして弦之介が出した最後の答えとは

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互いに最後の一人となった朧は弦之介に想いを伝え…

慶長19年5月7日の夕刻。凄まじい争いの末、奇しくも甲賀と伊賀それぞれの最後の一人となった朧と弦之介でしたが、朧の「七夜盲」の効果はすでに消えていました。無防備の弦之介に対して彼女は攻撃せず、最後の想いを伝えます。そして自身の胸を刺し、息絶えるのでした。その直後、「七夜盲」の効果が消えた弦之介が目にしたもの、それは最愛の朧の亡骸でした。甲賀の勝利に錯乱した阿福は、配下の侍たちに弦之介を討つよう命じますが、彼は瞳術でこれを一掃します。そして朧の亡骸を愛おしそうに抱きしめた後、巻物に記された彼女の名を消すと同時に自身の名も消し、さらにこう書き加えます。「さいごにこれをかきたるは伊賀の忍者 朧なり」と…。弦之介は朧を抱えたまま、安倍川へと入ってゆき、彼もまた自身の胸を刺して自害します。そう、朧と弦之介は、互いに相手のために自身が犠牲になるつもりだったのです。二人の亡骸は弾上・お幻と同じように、しっかりと互いの手を握りしめて安倍川へと流れてゆき、物語は終わります。

悲恋というには余りにも壮絶かつ切ない物語は、アニメ化もされる大ヒットとなり、2000年には「忍-shinobi-」とタイトルを変え、実写化映画も公開されました。そして、山田風太郎の原作はせがわまさきによって次々とコミカライズされ、いずれも好評を博しています。報われないと分かっていても愛に殉じた、悲しくも切ない男女の物語。弦之介と朧以外にも、多くの愛憎劇が展開されるバジリスク。「歴女」の方も、そうでない方も、未見の方は是非一度読んでみることをオススメします。