あの芥川龍之介も一目置いていた?『蜜のあわれ』作者・室生犀星とは

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作家・室生犀星の小説『蜜のあわれ』の実写映画が4月1日に公開されます。あの芥川龍之介もその感性に羨望したという、巧みな言葉づかいを駆使した室生犀星の詩や小説について、紹介していきたいと思います。

幻想文学がついに映画化『蜜のあわれ』

自分のことを「あたい」と呼ぶ丸いお尻の愛くるしい赤子と、赤子が「おじさま」と呼ぶ老作家。親子以上に年の離れた2人は、仲睦まじく一緒に暮らしていました。赤子には、真っ赤な金魚になるという秘密がありましたが、普通の人間には彼女の正体はわかりません。そんなある日、老作家の過去の女が幽霊となって現れ…。
室生犀星の会話のみで構成された幻想的な小説「蜜あわれ」を、赤子役を二階堂ふみ、老作家役を大杉漣、過去の女役を真木よう子が演じ、「シャニダールの花」の石井岳監督により映画化。詩や随筆、小説など様々なジャンルの作品を残した室生犀星の代表作を紹介していきます。

自由で懐かしい抒情詩が光る「抒情小曲集」


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“ふるさとは遠きにありて思ふものそして悲しくうたふもの”――詩集「抒情小曲集」の「小景異情(その二)」の始まりの部分ですが、知っている方も多い有名な詩ではないでしょうか。この詩は、この一文だけを読んだ時に感じる気持ちと、詩の全体を読んだ時の気持ちでは違う感想を抱くと思います。何気ない自然を思う気持ちやふとした感情の揺れ動き、自身の挫折や夢を託したような「抒情小曲集」は、自由に表現された抒情詩だからこそ、共感度も高く、胸に迫るものがあります。素直な心で読み、感じたことをそのまま味わって欲しい詩集です。

初期の自伝的小説「或る少女の死まで―他二篇 」


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“私”は、生後間もなく近所の家に養子として預けられる。幼い私は、なぜ自分が養子に出されたのかわからず、実の母に会いに何度も実家を訪れては養母に叱られていた。私を可愛がってくれるのは、一度嫁いで戻って来た養家の姉だけ。やがて実父が死ぬと、女中であった母は追い出され、消息不明になる…。
“私はよく実家へ遊びに行った”という書き出しで始まる「幼年時代」は、詩人として名を馳せていた室生犀星の処女小説であり、自伝的小説です。他にも「性に目覚める頃」などが収録されており、繊細な文章が読む人の琴線に触れてくる作品集です。

困難の中で生きていく人間の強さを描いた「杏っ子」


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「杏っ子」の物語は大きく3つで構成されており、まずは私生児として生まれた平山平四郎の辛い境遇の少年時代が描かれ、次に、文学を志し、結婚して子どもが産まれ、作家になった平山平四郎が、娘・杏子(杏っ子)の成長を見守っていくところが描かれ、最後は成長した杏子の結婚生活について描かれ、物語が展開していきます。
通常の小説より少し長めの長編のため、人に薦めづらい作品でありながら、読んだ人を説明がつかない魅力で惹きつけてしまうような小説です。父と娘の関係も、感情的に表現されているわけではなく、お互いを尊重し合う部分に深い絆が感じられます。平四郎が主人公というよりは、登場人物それぞれの、人が生きていくということを描いた作品です。

読みにくいと思いながら読んでいると、なぜか心地よく感じてくる文章。詩で磨かれた感性と繊細な文章力。満たされない孤独な気持ちやそれでも真摯に生きていく様がヒリヒリと伝わってくる物語。読むほどに切なくなり、読むほどに胸に響く、室生犀星の魅力を感じてはみてはいかがでしょうか?


『蜜のあわれ』
4月1日(金)より、新宿バルト9他にてロードショー
©2015『蜜のあわれ』製作委員会