山田風太郎とせがわまさき・第二弾「Y十M 〜柳生忍法帖〜」其の弐

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七人の女たちの指南役として暗躍する十兵衛

以前もご紹介しましたが、引き続き「Y十M 〜柳生忍法帖〜」のご紹介です。
堀の女たち七人の仇は、いずれも人間離れした能力を持つ凄腕の武芸者たち。仇討ちを果たすためには血のにじむような修行と、参謀・柳生十兵衛による奇策、そしてとてつもない強運が必要です。あくまで自身は手を出さないと決めている十兵衛は、美女たちに仇討ちの力を身に付けさせるべく、厳しい稽古を続けるのでした。そしてついに美女VS七本槍の戦いが始まります。

暴君・加藤明也と会津七本槍とは

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堀一族の女たちが父や夫の仇として復讐を誓う者たち

「加藤明也」は四十万石を誇る会津藩の二代目藩主。名君と呼ばれた加藤嘉明の実子ながら、その人望は皆無で、父の代から仕える老臣を疎んじ、芦名衆の力を背景に人の命を何とも思わない暴虐の限りを尽くす非道の大名です。
そして「会津七本槍」は頭目「芦名銅伯」が率いる、会津土着の芦名衆の中でも精鋭の武芸者たちです。明成の父・嘉明の勇名賤ヶ岳七本槍にちなんで、そう呼ばれているものの実際には領民を苦しめ、残虐非道な行いを繰り返していました。

一.「大道寺鉄斎(だいどうじ てっさい)」
長大な鎖鎌を扱う老人。古参の家臣であった堀主水との衝突で今回の口火を切った張本人。
二.「平賀孫兵衛(ひらが まごべえ)」
長槍使いで、数人の人間や馬を貫いた槍をそのまま片手で振る怪力の持ち主。
三.「具足丈之進(ぐそく じょうのしん)」
三匹の大きな秋田犬「天丸・地丸・風丸」を操る獣使い。本人の実力は他者に劣るものの、犬との連携で様々な計略を巡らせる策士。
四.「鷲ノ巣廉助(わしのす れんすけ)」
矢をもはじく鋼のような肉体と怪力を持つ巨体の拳法使い。東慶寺の分厚い門を素手で破壊し、蹴り破った。
五.「司馬一眼坊(しば いちがんぼう)」
放たれた矢を叩き落とし、人間を胴斬りにするなど無知を自由自在に操る禿頭の巨漢。七人の中では比較的常識を持ち、他者をたしなめたり、計画立案を行う軍師的な役割も担う。
六.「香炉銀四郎(こうろ ぎんしろう)」
七本槍最年少の美少年だが顔面中央に刀痕がある。「霞網」というあやしげな武器を使う。若さからか最も過激な性格で、周囲からたしなめられることが多い。
七.「漆戸虹七郎(うるしど こうしちろう)」
隻腕の剣士。後に十兵衛とは互角の実力であると認め合う。人を斬る前に、花一枝を切り落としてから口にくわえ、陶酔状態となって剣を振るう人斬り。

自分たちだけで復讐を果たすと誓った七人の美女

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十兵衛のもとで修練を続ける細腕の美女たち

いずれも会津藩内で噂にのぼるほどの美女たちは、全員武家の妻や子女であるものの、武術に秀でているわけではなく、ごく普通の女性です。当初こそ人を食ったような態度の十兵衛に不信感を抱きますが、次第に彼を慕うようになっていきます。

一.「お千絵(おちえ)」
十九歳にして七人のリーダー。その美貌から明成が妾にしようと主水に持ちかけ、主水が鉄斎を通じて痛罵したことで君臣間の亀裂が大きくなり、今回のお家騒動が勃発した。
二.「お笛(おふえ)」
堀家に仕えていたお千絵の世話役。十八歳。天真爛漫で無鉄砲な性格は十兵衛に女豪傑と言われるほど。
三.「お鳥(おとり)」
堀家家臣・板倉不伝の娘。二十歳。ややふくよかながら、艶かしさと色気を漂わせる美女。
四.「お圭(おけい)」
堀家家臣・稲葉十三郎の妻。二十五歳。凛とした雰囲気を持つ。
五.「さくら」
堀主水の弟・真鍋小兵衛の娘。十七歳。中性的な容姿と勇敢な性格を持つ。銀四郎から密かに好意を寄せられていた。
六.「お品(おしな)」
堀家家臣・金丸半作の妻。二十七歳。艶かしい色香があり、口元にホクロがある。
七.「お沙和(おさわ)」
堀主水の弟・多賀井又八郎の妻。三十歳。淑やかで優しい性格を持ち、仕立物が得意。

前哨戦〜十兵衛VS大道寺鉄斎

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自身の得意とする戦法を破られ困惑する鉄斎

十兵衛はまず七本槍の実力を量るため、般若の面をかぶり、江戸は芝にある会津藩加藤家上屋敷へ偵察として潜入します。屋敷内に残された足跡と、土塀に大きく書かれた「蛇の目は七つ」という墨書に気が付いた鉄斎と孫兵衛、銀四郎の足下へ屋根の上から大筆を投げ落とす十兵衛。
この挑発に対し、幕府の隠密(スパイ)かと疑う三人でしたが、「隠密ならば切り捨て御免が世の習い!」と孫兵衛が襲いかかります。しかし十兵衛はこれを一蹴、後を追って来た鉄斎と庭園で交戦しますが、ここでも相手の技をものともせず破ります。そして銀四郎もその場へ駆けつけますが、すでに敵の姿はありません。
あえて反撃せず悠々と立ち去った謎の男に慄然とする三人でしたが、一方で十兵衛も帰りの舟を漕ぎながら、「こりゃあ…ちと…骨が折れるなぁ」とつぶやき、聞きしにまさる七本槍の実力、そして女たちの仇討ちの困難さを肌で感じ取るのでした。

ついに始まった潜伏先での荒修行

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真剣で斬り掛かる七人を扇子一本でさばく十兵衛

女人禁制の禅寺「萬松山東海寺」を潜伏先とした七人の女たちに、十兵衛は昨夜の偵察のことを伝え、ついに修練が開始されます。それぞれ真剣を手にした女たちに対し、十兵衛は「俺を七本槍の一人と思ってかかって来い」と指示します。
片手に扇子を持つだけのその姿に「何の…おふざけでございますか」と怒り、困惑する女たちでしたが「心配するな、手加減はしてやる。ただし…命懸けで来いよ」と全く意に介さない十兵衛。その中で殺気をまとって斬り掛かったのはさくら一人のみでした。これに怒った十兵衛は、再度七人で一斉に打ち込んで来るように一喝します。
真剣で斬り掛かかった女たちを扇子一本で苦もなくさばいて、はじき飛ばした彼は思案した後、修練課目に乱取りと体術を加える旨をお知絵に言い渡します。その実力を目の当たりにしたお知絵もまた、「…は…い 十兵衛…先生…」と応えるのでした。そして七人の女たちは十兵衛に全幅の信頼を寄せてゆきます。

会津へ逃げ帰る明也を追う女たち

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会津藩で待ち受ける芦名衆の頭目「芦名銅伯」

十兵衛のもとで厳しい修練を乗り越えた女たちは、いつしか丈之進をして「別人のような使い手」と言わしめるほどの実力を身に付けていました。そして参謀・十兵衛が立てた奇策と強運も手伝って、鉄斎・孫兵衛・丈之進の三人を討ち果たすことに成功します。一人倒されるごとに「蛇の目は四つ」と徐々に減り、書き残される墨書。さらにその場に居合わせ、自分たちをいつでも殺せる実力を持ちながら、決して自身は手を出さない謎の般若面。
これに恐怖した加藤明也は会津への帰国を決意し、出立するのでした。江戸から会津までの道中六十五里、十兵衛と女たちは沢庵和尚の助けのもと追撃戦へと旅立ちます。そして残された七本槍の四人も、これを返り討ちにすべく待ち受け、戦いはさらに激化してゆきます。旅の道中、さらに潜入した会津藩内でも繰り広げられる凄絶な戦い。会津藩内で十兵衛は芦名衆の頭目「芦名銅伯」、そして仇討ちの行方を左右する最後の重要人物である女性と出会います。

自分は一切手を出さないと言い放つ反面で、七人の女たちが窮地に陥ると自分の命を捨ててでもこれを助けようとする十兵衛。会津までの道中ではそんな彼を巡り、同志であるはずの堀一族の女性間でも思わず笑ってしまうようなトラブルが起こります。山田風太郎の文章だけでも一旦読み始めると止まらない物語が、せがわまさきのタッチでさらに生き生きと動き出す「Y十M 〜柳生忍法帖〜」。原作を読了した方でも、きっと新たな魅力が発見できるのではないでしょうか。