
『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー賞®国際長編映画賞およびカンヌ国際映画祭脚本賞を受賞し、『悪は存在しない』でヴェネチア国際映画祭銀獅子賞、『偶然と想像』でベルリン国際映画祭銀熊賞に輝くなど、国内外から圧倒的な賛辞を浴びる世界的監督、濱口竜介さん。待望の最新作『急に具合が悪くなる』が、6月19日(金)より全国で大ヒット上映中です。
公開を迎えるや、SNSでは「大傑作だった」「素晴らし過ぎて語彙を失う」「濱口監督は本当にすごい場所に到達している」という絶賛が相次ぎ、「3時間があっという間」「未来への願いに満ちた傑作」「ずっとこの時間が続けばいいのにと思いながら観ていた」「映画館を出た後、外の景色が違って見える」など、劇中描かれる現代社会への言及も含め、本作から希望や心地よさを受け取る人、「二人にまた会いに行きたい」「何度でも見たい」など、3時間16分という長尺ながらもリピート鑑賞をのぞむ声も多数。公開~3日間の興行収入は米アカデミー賞®国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』と比較して148.63%、そして現在劇場公開中作品のなかでベストテン入りを果たし、国内最大級レビューサイトFilmarksでは公開初日満足度堂々の1位にランクインしました!そんな『急に具合が悪くなる』旋風は国内外を問わず巻き起こっており、早くも世界70ヵ国以上の国や地域での配給が決定、アメリカ発・最大級の映画レビューサイトであるロッテントマトで満足度100%を記録し続けています(2026年6月27日時点)。
物語の中心となるのは、介護施設で理想のケアの在り方を探求するマリー=ルーと、独創的な舞台演出家でありステージⅣのがん患者である真理。同じ名前を持つふたりが偶然に出会い、やがて友情という枠組みをも超えた深い絆を結んでいく姿を描き出す。主人公のふたりを演じるのは、『ベネデッタ』で世界的な注目を集めた仏トップ女優ヴィルジニー・エフィラさんと、トップモデル「TAO」として一時代を築き、『ウルヴァリン:SAMURAI』などハリウッドを中心に国際的なキャリアを重ねる岡本多緒さん。日仏の実力派によるW主演の脇を固めるのは、『敵』で第37回東京国際映画祭最優秀男優賞などに輝いた名優・長塚京三さんと、主演作『見はらし世代』で高い評価を受け、先日最終回を迎えたテレビドラマ「サバ缶、宇宙へ行く」(CX)に出演するなど話題作への出演が続く気鋭の俳優・黒崎煌代さん。
この度、6月27日(土)に濱口竜介監督が登壇しQ&Aトークイベントが開催されました。
本作の出発や映画作りへの思いについてなど、たっぷり語っていただきました。
『急に具合が悪くなる』公開記念!濱口竜介監督Q&A
◆日時:6月27日(土)
◆場所:Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
◆出演者(敬称略):濱口竜介監督

6月27日(土)、映画『急に具合が悪くなる』の大ヒットと熱狂的な反響を受け濱口竜介監督が登壇しQ&Aが開催されました。台風にも関わらず満席の観客の温かい拍手と熱気の中、濱口竜介監督が登壇。「本日は本当にお足元の悪い中、お越しいただきありがとうございます。」と挨拶し、観客からの質問に応えた。
最初に、司会者から制作の経緯を聞かれると、原作である哲学者・宮野真生子さんと文化人類学者・磯野真穂さんの往復書簡を読んだ時に「シンプルに感動したから」だそう。「根本的にはとても知的で抽象的なやり取りなのですが、センチメンタルなものでは全くなくて、最終的には、ものすごく純度の高いエモーションがあった。おふたりが実際に会ったのは本当に数える程度だそうで、ほぼその手紙でしかないおふたりの関係性に、本当に体が震えるような感動を覚えました」しかし、映画化にあたっては「本当にあらゆる苦労があった。原作は視覚的な要素がほとんどない。どうやって映画にするか本当に悩みました」と振り返る。ただ、テキストのやりとりを映画にしてもさすがに観客は楽しまないのではないか、という思いから、早い段階から会話劇を想定していたという。
打開策となったのは、フランスからの制作オファーだった。「フランスを舞台にした物語であれば、ある程度ずっと人がしゃべっていっても大丈夫なんじゃないか」と、原作の持つ“距離のある関係性”を再現するために、日本人とフランス人のキャラクター設定へと落とし込み、さらにふたりを結ぶ要素として監督自身が関心を持っていた「ユマニチュード」の概念を導入。これらの要素を掛け合わせることで、映画としての具体的な骨組みを見出していった。「紆余曲折を経て、わらしべ長者的に、行き着いたところで何かにつながり、これだったら映画になるのではないかというものを集めた結果」と経緯を振り返り改めて語った。
また、監督は観客からの熱意のこもった質問にも真摯に応えた。
音楽についてどのような演出をしたか聞かれると、「本作の音楽を担当したのは、フランスで活動するカナダ人作曲家のサミュエル・アンドレイエフさん。彼は10代の若さでデビューし、すでに20年以上のキャリアを持つ非常に才能のある方です。今回、音楽担当を見つけるのにはかなり苦労していました。前作『ドライブ・マイ・カー』や『悪は存在しない』で音楽を担当していただいた石橋英子さんに相談したところ、このサミュエルさんを紹介していただきました。実際に彼が作った曲を聴き面接もして“この人なら”と依頼しました」
濱口監督が求めていたのは、「優しいメロディーでありながら、どこか不穏さを孕んでいるような、どちらの感情にも転びうる絶妙な音楽」だった。「これは非常に難しい要求ですが、音楽理論を深く勉強されているサミュエルさんは、はっきりとしたメロディーもつくれるのですが、多彩なアレンジによってその絶妙なニュアンスを表現できる方でした」
とはいえ、その微細なニュアンスを形にするために、何度もやり取りを重ねたという。「特にオープニングやエンドロール前にかかるメインテーマにたどり着くまでには何度もやり取りがあり、彼にとっても苦しいプロセスだったと思いますが、最終的にとても素晴らしいものにしてくれました。エンドロールでは、観客が映画の余韻に浸り、全体を振り返りながら終わっていく時間を受け止められるようなものにしたいと伝え、劇中劇で観客が鳴らす楽器の音をサウンドデザインで再構成した音を使いつつ、子守歌の要素を組み合わせています。本当に才能のある方だと思っています。
さらに、本作に登場する猫について、監督作『寝ても覚めても』にも猫が登場するが何か思い入れがあるのか、と聞かれると、「子どもの頃、イランに住んでいて猫を飼っていたんです。撮影現場ではよく「犬じゃダメなんですか?」と聞かれることもあります。犬と違って猫はトレーニングが思い通りにいきません。それでもなぜだか「そこはやっぱり猫で」と言ってしまいます」
また、「作品の最後に感じる希望は現実にも感じるか」問われると、「基本的に、よくも悪くもこの世界しか残されてない。この世界は最低であり、同時に最高であるということなんだと思います。どこに目を向けるかだと思います。例えば映画を撮っている時に、澄み渡っているように感じる時があります。本当に何か……遠くで針一本が落ちたら聞こえるんじゃないか、っていうような精神状態になることがある。自分の目の前でこんなことが起きていることがなんだか信じられる。そして、それをカメラが撮ってくれている。そういう状況にいた時に、いつもそんなことが起きるわけではないけれど、“この世界にこういう時間や空間があるのであれば、何度でも行ってみたい”という風に可能性を感じることはあります」と答えた。
最後に、「監督にとって映画を映画館でみる、とはどういう意味をもつのか」と問われると、「もしこの映画に“仕掛け”というものがあるとするならば、それは“色々な偶然が映っている”ということだと思います。現場では意図していたわけではないこと、予測とは違うことが、本当にすごくたくさん起こるんです。それは観客の皆さんが知り得ないような現場だけのことで、全てはフレームの中で意図して作られたように感じられるかもしれませんし、それはそれで構いません。ただ、何度も見たり、集中して見たりすると、“これ、おかしくないですか?”と思うような、計算ではない瞬間がすごくたくさんあると思っています。自分自身、役者たちの表情や身のこなし、その場の空気感といったものの中に、そうした“偶然”を発見することがあります。そして、そんな偶然を発見できるほど、観客の注意力や集中力が高まる場所というのは、基本的にはもう映画館しか残されていないんじゃないだろうか、と思っています。
自分自身も配信で映画を見ることが増えましたが、スマホを一度も触らずに見終えることがほぼない。悲しいことですが、集中力が映画館とは全く違うのです。配信を否定するわけではなく、今まで見られなかった作品が見られるようになるなど、映画館とお互いに補い合う関係だとは思います。しかし、映像・音響メディアである映画の力が最も発揮される場所が映画館であるということは、配信が普及して10年以上が経った今、ますます確信しています。わざわざ携帯電話を切って、ひとつの画面を見つめ、その音を聞く。この体験が観客の体に働きかけるものはものすごく大きいですし、その集中力を持って発見した”偶然”は、かけがえのない記憶になるはずです。長い映画ではありますが、そういうものを感じ取ってもらえると、また映画を観たい、と思ってもらえるのではないか、そういう作品を作れたのではないかと思っています」と思いを語った。
最後に「今日こうして皆さんに来ていただいて、熱量を感じられたのはものすごくありがたいことでした。またこういう機会があるといいなと思っています。本当にありがとうございました」と感謝の言葉を述べると会場は大きな拍手に包まれ、イベントは幕を閉じました。
【ストーリー】
パリ郊外の介護施設「自由の庭」の施設長であるマリー=ルー・フォンテーヌは入居者を人間らしくケアすることを理想としつつ、人手不足やスタッフの無理解などに悩まされている。そんな中、マリー=ルーは森崎真理という日本人の演出家に出会う。がん闘病中の真理が演出するのは、自閉スペクトラム症の孫・智樹と行動を共にする俳優・清宮吾朗の一人芝居。真理の描く演劇に勇気をもらったマリー=ルー。同じ名前の響きを持つ偶然に導かれて、二人の交流が始まる。しかし、あるとき真理は「急に具合が悪くなる」。真理の病の進行とともに、二人の関係は劇的に深まり、互いの魂を通わせ合うようになる⋯⋯。
『急に具合が悪くなる』公式サイト
急に具合が悪くなる
監督:濱口竜介
原作:宮野真生子・磯野真穂著『急に具合が悪くなる』(晶文社)
脚本 濱口竜介 ルディムナ玲亜
出演:ヴィルジニー・エフィラ 岡本多緒 長塚京三 黒崎煌代
製作:Cinéfrance Studios, オフィス・シロウズ, ビターズ・エンド, Heimatfilm, Tarantula 配給:ビターズ・エンド
提供:Soudain JPN Partners フランス=日本=ドイツ=ベルギー合作|196分|カラー|1.5:1
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