是枝監督の映画は、セリフがなくても感じることのできる心の描写が素晴らしいです。特に子供たちの喜怒哀楽が見ている私たちの心にストレートに伝わってきて、楽しい映画も悲しい映画もずしんと体に残るような気がします。そんな映画を紹介しましょう。
共に暮らすことになった4姉妹の日常と心の交流を描いた『海街diary』
2015年の作品。
鎌倉の古い家で暮らす3姉妹。長女の幸(綾瀬はるか)、次女の吉野(長澤まさみ)、三女の千佳(夏帆)は、それぞれ仕事を持ち協力し合って暮らしています。ある日、15年前に家を出た父の訃報が届きます。告別式に出席した3人はそこで異母妹のすずと会い、身寄りのなくなった彼女を引き取り鎌倉で4姉妹として暮らすことを決心するのです。
しっかり者の幸、自由奔放な佳乃、マイペースな千佳、そして明るく活発ですが姉たちとの距離にとまどうすず。その配役が素晴らしくぴったりです。
しらす漁や千里ケ浜、江ノ電など、鎌倉の落ち着いた景色、ごく普通の様子が見ている私たちをすんなりとその世界に引き込んでくれます。
それぞれが悩み、生きていくために懸命に考え支え会う姿にきっと心打たれるはずです。
一体どうすればいいのか、そんな苦しみの中で家族のあり方を考える『そして父になる』
2013年の作品。
建築家として順風満帆な人生を送る良多とその妻みどり、そして一人息子の慶多は、裕福な生活を送っています。しかし、ある日6年間自分たちの子だと思っていた慶多が実は出産した病院で他人の子供と取り違えられていたことがわかります。
このまま家族として過ごすのか、それとも本来の親子として新しい生活を始めるのか…。
エリート夫婦は福山雅治と尾野真知子、小さな電気屋を営むもう一組の夫婦はリリー・フランキーと真木よう子が演じています。
子供たちのセリフは少なくても胸が痛くなるような演技が素晴らしいです。
次に紹介する『奇跡』でもそうですが、是枝監督の作品は子役がとても心に残りますね。
子供は子供でいっぱい考えているんだよ。家族のために冒険に出る兄弟を描いた『奇跡』
2011年の作品。
両親が離婚し、母親と鹿児島で暮らす6年生の兄、航一。そして、父親と福岡で暮らす4年生の弟、龍之介。
また4人で暮らすことを望む航一は「九州新幹線全線開業の日、新幹線がすれ違う時に願い事がかなう」という噂を耳にします。そこで、弟、クラスメイト達も巻き込みすれ違う瞬間を見るための小さな冒険に出かけます。
まえだまえだのふたりがそのまま兄弟役で主演しています。
『奇跡』ではまだ幼かった頃のふたりと、周りの大人たちとのほのぼのした関係や別れてしまった父母とのやりとりなどがとても自然です。弟の前田旺志郎は『海街diary』にも出演し、広瀬すずのクラスメイトとして重要な役を演じています。
空っぽの体と心。人は孤独をどうやって埋めるのか、大きなテーマを抱えた『空気人形』
2009年の作品。R15指定です。
中年の男、秀雄(板尾創路)は空気人形(ペ・ドゥナ)を彼女として一緒に暮らしています。いつしか、その空気人形は心を持ちました。秀雄のいない昼間にビデオ店でアルバイトをし、同僚の純一に惹かれていきます。
最初はロボットのような動きだった空気人形がどんどん人間の女の子になっていく様子はファンタジックですが、ラストは衝撃的です。ペ・ドゥナの美しく白い体は本当に人形のよう。人間の孤独を描いた、ちょっと怖くて切ない大人向けのラブストーリーです。
いつかは変わること、いつまでたっても変わらないこと。家族ってそんなもんかもと思う『歩いても歩いても』
2008年の作品です。
普通の家族の普通の1日を描いた映画です。
15年前に亡くなった兄の命日に、良多(阿部寛)と妻のゆかり(夏川結衣)は息子を連れて実家に帰ります。実家には良多の両親と姉がおり、食事を作り食べ、たわいのない会話をします。良多は、自分が失業中だと言い出すことができません。15年前、兄は海でひとりの子供を助けて自分は死んでしまいました。その子供は25歳になった今でも毎年命日になるとやってくるのです。
父、母、そして息子、嫁…それぞれの立場のそれぞれの感情がふとした瞬間に垣間見えたり表情にあらわれたりして、自分と重ねあわせてしまう場面も多くあります。
老いてく親、そしてまた自分も変わっていく。静かな、ちょっと懐かしさを感じるような作品です。
子供が主役の名作。そして、バッドエンドの名作『誰も知らない』
実際の事件を題材に映画化された、2004年の作品。
主演の柳楽優弥が史上最年少そして日本人初のカンヌ国際映画祭最優秀主演男優賞を獲得しました。
父親の違う4人の子供たちを置き去りにし、違う場所で男と暮らし始めた母親(YOU)。生活費は現金書留で送り、一切帰宅しなくなってしまいます。学校にも行かず、だれにも知られず、兄弟だけの生活が始まったのです。
衝撃的すぎるストーリーを先に耳にして、未鑑賞の人も多いかもしれません。
子供たちの表情が、辛くて、胸が痛くなります。小さい体で寄り添って生きていく4人の姿が痛々しく、公開当時も今もこの子役たちの演技は絶賛されています。とても悲しい映画ですが、名作です。