【シネマジーンの映画ノート】『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』レビュー

レコメンド

あの頃のきらめき。あの頃の痛み。ノスタルジックな“少女の時間”。

青春のきらめきと、思春期に感じた胸の痛み、そのどちらもが本当に大切なものだったんだと感じ入らずにはいられないこの作品―映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』。これから思春期を迎える子たちにも、現役ミドルティーンにも、かつて高校生だった大人たちにも、是非オススメしたいです!

かつて高校生だった大人という立場の私ですが、南沙良さんと蒔田彩珠さんの真に迫る演技を観ていると、心の奥の方に埋もれている古い記憶がよみがえってきて、すぐに志乃や加代のことが他人とは思えなくなりました。もはや「共感」という言葉だけでは言い尽くせません!誰にも理解されないとか、理解されなくたって生きていけるとか、そんな自分のことをわかってくれたあの子とか…まるで、自分の過去や心の中にしまい込んでいたことをスクリーン上にさらけ出しているような感覚でそわそわした気持ちになるほどです!

原作は人気漫画家・押見修造さんが自身の体験をベースに描いた同名作。主人公の志乃(南沙良さん)は、「自分の名前が言えない」という作品タイトルの通り、うまく話すことができないことにコンプレックスを抱いている女の子。そんな彼女が、ミュージシャン志望なのに超絶音痴な加代(蒔田彩珠さん)と友達になり、ふたりでバンドを組んで文化祭のコンテスト出場を目指すことになります。そしてある時、ふたりが路上で演奏しているところを同じクラスの空気が読めない男子・菊地(萩原利久さん)に見られてしまい、あろうことか菊地がバンドに参加したいと言い出します。いつも一緒だったふたりの間に闖入者がやってきたことで志乃の心は波立ち、加代との関係も崩れ始めてしまうのでした。

本作で描かれる女の子同士の関係性には、すごくリアリティがあります。私が思うに、この年頃の女の子たちの友情とは、その時だけの鮮やかさがあって特別濃いものであると同時に、ガラスのような脆さも持ち合わせています。仲良しの子とふたりでいると気が置けなくて何でも話せて最高の友達だって思ったのに、もうひとりグループに加わると途端にそれまでのバランスが保てなくなって、本当の気持ちを話せなくなったり居心地がわるくなってしまったりする…そういう覚えがある人も多いのではないでしょうか。当人にしかわからないような複雑なバランスの上に成り立っている友情、何気ない日々の中で揺れる少女たちの心。あの頃だけの濃密な時間が志乃と加代の間に流れているのを感じ、懐かしさがこみ上げてきて何ともノスタルジックな気持ちに!

そんな風に“特別”が自分の物だった瞬間はずいぶん昔のことになったのだと気づいて少しの切なさを覚えつつも、傷つきながら歩み始める少女たちの姿に心を打たれる本作。あたたかな余韻が残る鑑賞後は、劇中で流れていた音楽がまだ心の中で響いているように感じました。

映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』予告編

『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』予告編

映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』は絶賛公開中です!

映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』ストーリー

伝わらなくてもいい。伝えたいと思った――。
高校1年生の志乃は上手く言葉を話せないことで周囲と馴染めずにいた。そんな時、ひょんなことから同級生の加代と友達になる。音楽好きなのに音痴な加代は、思いがけず聴いた志乃の歌声に心を奪われバンドに誘う。文化祭へ向けて猛練習が始まった。そこに、志乃をからかった同級生の男子・菊地が参加することになり…

『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』公式サイト
7月14日(土)より公開中!
出演:南 沙良 蒔田彩珠 /萩原利久 /
小柳まいか 池田朱那 柿本朱里 中田美優 / 蒼波 純 / 渡辺 哲 /
山田キヌヲ 奥貫 薫
監督:湯浅弘章
原作:押見修造 「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」(太田出版)
脚本:足立 紳
配給:ビターズ・エンド
制作プロダクション:東北新社
©押見修造/太田出版 ©2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会

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