『崖の上のポニョ』の総作画枚数は何枚?―すべてのものを手で描く、スタジオジブリの魂

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例えば映画冒頭の海の中の生物たちが描き出されるシーン。ものすごい数の様々な海洋生物たちがそれぞれ蠢いているバラバラの動きが描かれており、その作画にかかる手間を考えると卒倒しそうになります。このカットでは、生き物の種類ごとに動画がつくられ、何層にも重ねられて1カットが撮影されています。つまり、生き物の種類と同じ数だけのレイヤーが存在していて、それぞれのレイヤーに動画が描かれています。何種類の生き物が隠れているのか数えてみると、このカットにかけられた作画のエネルギーを感じることもできるかもしれないですね。

また、ポニョが人間の世界にやってきて、海の底に沈むゴミと一緒に漁船の網に掬われそうになるシーンでも、多数のゴミや魚、さらには網と、数多くのものの動きが丹念に描かれています。映画全体を観ると、1カットというのはほんの一部であり、さらりと流れていくもののようにも感じるかもしれませんが、これほどまでにこだわり抜いてつくられていると、まさに「魂のこもったアニメーション」ということを感じますし、1カットであったとしても圧倒的な力強さを放っています。

そして、海が舞台のこの作品の多くのシーンで描かれている水の描写。「ポニョ」で水や波の輪郭が実線で描かれていることにも注目したいです。「ポニョ展」の展示によると、水を描くときに複雑に描くとかえって感じが出なくなるので適度に省略したりして表現するのだそうです。また、すべて実線で描くと画面が煩くなることから部分的に色線で輪郭を描いてもいます。こうして、ただリアルな動きを追いかけるのではなく「それらしく」感じるように、動きに省略やデフォルメを行って魂を吹き込む技、これぞアニメーションですね!それもやはり、アニメーターの観察眼と動きを捉えて絵として再構成する力あってこそ実現されることなのでしょう。

大人ファンも多いジブリ作品の中で、特に幼い子供たちをメインターゲットに作られていると思われる『崖の上のポニョ』。非常に直感的でおとぎ話のようなストーリー展開やデフォルメされた可愛らしいキャラクター造形に、もしかしたら「子供向けの作品だから」と距離を置いている方もいるかもしれません。でもじっくり観てみると、何もかもを手で描きまくって動かす、そのこだわりが1カット1カットから感じられて、その熱量に驚かされることは間違いありません。「エンピツで映画をつくる」という、熱い魂を感じながら鑑賞すると、以前とは違う魅力に気づくかもしれません!

参考:「崖の上のポニョ展」パンフレット 財団法人徳間記念アニメーション文化財団発行(2009年7月1日)