『オーバー・フェンス』『そこのみにて光輝く』など。孤高の小説家・佐藤泰志が近年再評価される理由とは?

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高校在学中に文学賞を受賞するなど、早くからその才能を見せていたものの商業的成功には至らず、41歳で失意の自殺を遂げた孤高の小説家・佐藤泰志。函館を舞台にした小説を書き続けた作家です。近年、映画化が相次ぐなど、佐藤泰志の作品を再評価する動きが高まっています。

押しつぶされないようにもがく若者たちを描く「きみの鳥はうたえる」

きみの鳥はうたえる
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主人公の「僕」は書店で働く若者です。僕は、書店に勤める前に働いていた倉庫で出会った静雄と同居しています。書店で出会った佐知子と恋仲になりますが、佐知子は静雄とも近づいていきます。しかし静雄のことも好きな僕はそれをとがめるわけでもなく静かに見守ります。しかし、静雄の兄が訪ねてきたことをきっかけに、運命の歯車は少しずつ軋み出すのでした。

佐藤泰志が最も得意とした青春労働小説「移動動物園」

移動動物園
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佐藤泰志のデビュー作品です。ヤギやウサギをバスに乗せ、幼稚園を巡回する移動動物園。主人公の達夫は飼育員をしていました。スタッフはたったの3人。中年の園長、20歳の達夫、そして達夫の3つ上の道子。暑い夏、達夫は汗を垂らしながら働いていました。青春の熱さと虚しさを捉えた作品です。

芥川賞候補にもあがった短編集「黄金の服」より「オーバー・フェンス」

オーバー・フェンスが収録されている短編集

オーバー・フェンスが収録されている短編集

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主人公の健一は大工を目指していましたが、育児に疲れた妻と離婚し故郷の函館へと帰ります。職業訓練校に通うことになった健一は、そこで出会った代島という男に聡(さとし)という娘を紹介されました。聡と距離を縮めながらも、健一は別れた妻や子供のことを忘れられないでいました。

「オーバー・フェンス」は2016年9月よりオダギリジョー主演で映画化が決定。ホステスの聡を演じる蒼井優とは『蟲師』以来、久々の共演となります。

愛をめぐるひと夏の物語「そこのみにて光輝く」

そこのみにて光輝く
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佐藤達夫は造船所をやめてから、職も探さずパチンコ屋に入り浸る日々を送っていました。いつものように来たパチンコ屋で、達夫は大城拓児と知り合います。拓児の紹介で、達夫は拓児の姉・千夏出会い心惹かれることに。深くかかわるにつれ、大城家の抱える問題と、それを支えるために奔走する千夏のことを知っていく達夫は、ついに千夏に求婚します。

映画では主人公の達夫を綾野剛、千夏を池脇千鶴、拓児を菅田将暉が演じています。

架空の都市を舞台に描く群像劇「海炭市叙景」

海炭市叙景
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佐藤泰志の遺作である未完の短編小説です。なけなしの金でロープウェイに乗り、そこで信念を迎えようとする若い兄妹。フェリーの上で将来について語らう男女。学校をさぼった少年の想い。家畜と共に暮らす老婆とその家族。海炭市で繰り広げられる人々のささやかな日常が描かれています。2010年にいくつかの物語を用いたオムニバス形式で映画化されています。

「海炭市叙景」「そこのみにて光輝く」「オーバー・フェンス」は、佐藤泰志が実際に函館の職業訓練校で過ごした日々の経験をもとに執筆した小説で、“函館3部作”と呼ばれています。
中でも9月17日(土)より公開される『オーバー・フェンス』は、“函館3部作”の最終章に位置づけられる作品です。

『オーバー・フェンス』映画オリジナル予告編

孤高の小説家・佐藤泰志の作品をご紹介しました。いかがでしたか?没後20年が経ち、故郷函館の市民の力で次々と作品が映画化されています。佐藤泰志が描く純粋で不器用な若者たちに触れてみてください。

『オーバー・フェンス』
9月17日(土)、テアトル新宿ほか全国ロードショー
©2016「オーバー・フェンス」製作委員会

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