【シネマジーンの映画ノート】『世界でいちばん悲しいオーディション』レビュー

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【シネマジーンの映画ノート】『世界でいちばん悲しいオーディション』レビュー

「アイドルになりたい」

スポットライトに照らされた画面の向こう側で歌って踊る女の子たち。華やかな衣装に身を包んでかわいく笑い、時にクールな視線で観るものを虜にする。そんなアイドルに憧れ、「私もあんな風になりたい」という思いをほんのちょっとだけでも抱いたことがあるという人は、そう珍しくないかもしれません。

今回鑑賞した映画は、2019年1月11日(金)よりテアトル新宿他にて全国順次公開の『世界でいちばん悲しいオーディション』。この作品は、アイドルを目指して7日間にわたる過酷なオーディション合宿に臨む少女たちのドキュメンタリーです。

【シネマジーンの映画ノート】『世界でいちばん悲しいオーディション』レビュー

カメラが追うのは音楽事務所WACKが主催するBiSHBiSGANG PARADEEMPiREの新メンバーオーディションに参加した24名。集まった参加者たちは6泊7日、寝食を共にします。合宿で行われるのは「一風変わった」という表現では生易しい、規格外ともいえる審査です。オーディションは加点方式で行われ、チームごとに練習して披露する歌やダンスの課題はもちろんのこと、礼儀や生活態度、超激辛デスソース入りの食事を完食するという罰ゲームのような試練など、まさに24時間、彼女たちの合宿生活すべてが審査対象となります。

さらにこの合宿の模様は24時間ニコ生で配信され、視聴者による一般審査ポイントも加算されます。そして一日の終わりに行われるのはオーディション脱落者の発表。脱落者には人生ゲーム対決やスクワット対決といった、敗者復活戦に挑む権利が与えられます。以上のように、歌やダンスのスキルだけでなく、やる気や合宿に臨む姿勢、運までもが結果を左右するこのオーディションで、参加者たちは数々の困難や理不尽に直面することになるのです。

夢や憧れに突き動かされ、このユニークなオーディションに参加した少女たちは、カメラに向かって「変わりたい」「居場所がなかった」「アイドルが天職」「人を幸せにしたい」と身の上や思いを語ります。衆人環視の環境の中、常に審査を意識し、ありのままの自分とステージの上に立つ「アイドル」の間で揺れながら、曝け出す生の感情。カメラが捉える彼女たちは未熟で幼稚な面も多く、決して褒められたものではない姿が映し出されることも。

【シネマジーンの映画ノート】『世界でいちばん悲しいオーディション』レビュー

過度な緊張に追い詰められる場面や合宿のプログラムがキツイ時、そして脱落者となってしまった瞬間に彼女達の瞳からこぼれる涙。それは、「精一杯頑張って流す涙」や「勝者の涙」のように美しいとか熱いなどとは言い難いものですが、それでも私はその雫の一滴一滴から目を逸らすことはできませんでした。ぽつんと胸の中に落ちてきて、チクリと痛みを残す…。そんな涙なのです。そう感じるのは、夢を叶えたいともがき苦しむアイドル候補生の中の、「ひとりの女の子」が浮き彫りになって見えていたからだと思います。「今とは違う自分になりたい」と願う彼女たちの中に見え隠れする未熟さは、私たち観客にとっても身近なもので、受け止めずに流すことなどできないもののはずです。