【シネマジーンの映画ノート】『世界でいちばん悲しいオーディション』レビュー

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ある者は去り、またある者が食らいついた末に訪れる、オーディション最終日。普通の女の子がその日を境にアイドルになる、それはまるで、魔法にかけられてガラスのヒールを鳴らしながらきらびやかな世界に飛び込む、シンデレラそのもの…はたしてそうでしょうか?「スポットライトに照らされた画面の向こう側」に飛び込んでいくことは、そんなおとぎ話のような出来事なのでしょうか?この映画を観た私の答えは、「NO」です。

オーディションの結果を告げられた少女たちを見た私の心を占めていた気持ちは、「めでたしめでたし」と幕を引く物語を観た時とは全然違いました。それは、ただ合格者の影で不合格者の悲哀も映し出されているから、といった理由によるものではありません。辛い審査を勝ち残り、アイドルとしてデビューするのは確かに希望に満ちた出来事です。しかしそれはシンデレラストーリーの始まりというよりも、彼女たちが自分自身の歩む道を探してきた場所が「アイドル」というステージに変わったということなのだと感じたのです。

彼女たちは、ガラスの靴のプリンセスじゃなくて、茨の森に裸足でつっこんでいくようなハートを持った少女たち。傷だらけになりながら臨んだオーディションで選ばれた後に続くのも、また誰かに選ばれるため走り続ける道です。「オーディションに合格した」=「理想の自分に変われた」ということではないでしょう。本当に重要なのはアイドルになってからのことだ、という厳しさを突き付けられたような感覚が残ります。

映画では「悔いのないように」「後悔しないように」という言葉が繰り返されていました。この世の中では頑張ったからといって必ずしも報われるわけではなく、「こうすれば成功する」という正解もありません。それでも悔いなく生きていくにはどうするのが良いのか。それは選ばれた人も、選ばれなかった人も、生きていく限りずっと自身に問い続けていかなければならないことです。そう感じさせられた、この映画に登場する少女たちは、私の眼にはアイドルというよりもむしろ、私たちと同じようにもがきながら生きている「ひとりの女の子」のように映っていました。

『世界でいちばん悲しいオーディション』予告編

映画『世界でいちばん悲しいオーディション』30秒予告 2019年1月11日(金)公開 限界を超えた少女たちのオーディションドキュメンタリー

『世界でいちばん悲しいオーディション』公式サイト
監督・撮影・編集:岩淵弘樹
プロデューサー:渡辺淳之介
撮影:バクシーシ山下 西光祐輔 白鳥勇輝 エリザベス宮地
出演:オーディション候補生、モモコグミカンパニー(BiSH)、パン・ルナリーフィ(BiS)、
ペリ・ウブ(BiS)、キャン・GP・マイカ(GANG PARADE)、
BiSH、BiS、GANG PARADE、EMPiRE
配給:松竹メディア事業部
©WACK INC.
2019年1月11日(金)よりテアトル新宿他にて全国順次公開