【シネマジーンの映画ノート】『レディ・バード』レビュー

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イタくてほほえましい、思春期全開女子の1年

大人になると、「10代の頃って何の責任もなくて気楽でよかったな。」なんて過ぎ去りし日々を眩しく感じて羨んだりすることもままあります。でも、果たしてそんな言葉を10代の頃の自分が聞いたらどうでしょう。

「別に気楽じゃないし、悩みとかもあるし、簡単に決めつけないで。」

そんな風に思うかもしれません。けれど、すっかりセピア色の美しい思い出になってしまった昔の自分がどんなことを考えていたかなんて、なかなか思い出せないものです。そんな、焦燥や羨望がないまぜになって落ち込んだり泣いたりバカやったりした「あのころ」を普段は忘れ去っている人も、“レディ・バード”というひとりの女の子の中にかつての自分の面影を見て、思わず「ああ、懐かしいな。自分もこんなだったな。」なんて古い記憶が生々しく湧き上がってくるのではないでしょうか。

シアーシャ・ローナン演じる『レディ・バード』の主人公クリスティンは、カリフォルニア州サクラメントの片田舎で生まれ育った17歳の女の子。彼女は普段から“レディ・バード”と名乗り、友達や家族にもそう呼ばせています。レディ・バードはつまらない地元とそこで育った自分自身に嫌気がさしていて、文化的な都会の大学に進学することを望み、イケてる彼氏との特別な初体験を夢見ていて、そして学校では他の人とは違う注目を集める自分でありたいと願う、思春期の自意識の塊のような子なのです。そんなレディ・バードにとって、日々の生活や娘の教育のために一生懸命働く、口うるさくて現実的な母親は枷のような存在。母子は日々口論が絶えません。

自意識を研ぎ澄ませまくって、自分を愛してくれる身近な大人に反抗して“親の心子知らず”を体現するように友達とバカやったり彼氏とイチャイチャしたりするレディ・バードですが、その姿はなんだか懐かしくてほほえましくもあり、昔の自分を重ねてちょっと胸がズキっとしたりもします。そんな彼女のことが、物語が進むにつれてどんどん愛おしくなっていくのです。そして、“レディ・バード”という名の鎧を着て親や学校やつまらない田舎での日々に戦いを挑みまくっているクリスティンの姿も笑えて可愛らしいのですが、なんといっても苦悩を抱える元カレを抱きとめて励ます時や、都会で“レディ・バード”の鎧を武装解除して家族に思いを伝える時に見える素顔は、素朴で優しい素敵な女の子です。魅力的なキャラクターに加え、ユーモラスなセリフがあちこちに散りばめられていて笑いがこみ上げるシーンもたくさんあり、どんどん引き込まれていく作品でした。

映画『レディ・バード』予告編

『レディ・バード』予告編

映画『レディ・バード』ストーリー

羽ばたけ、自分
2002年、カリフォルニア州サクラメント。閉塞感溢れる片田舎のカトリック系高校から、大都会ニューヨークへの大学進学を夢見るクリスティン(自称“レディ・バード”)。高校生活最後の1年、友達や彼氏や家族について、そして自分の将来について、悩める17歳の少女の揺れ動く心情を瑞々しくユーモアたっぷりに描いた超話題作!

『レディ・バード』公式サイト
全国公開中
監督・脚本:グレタ・ガーウィグ
出演:シアーシャ・ローナン、ローリー・メトカーフ、トレイシー・レッツ、ルーカス・ヘッジズ、ティモシー・シャラメ、ビーニー・フェルドスタイン、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ロイス・スミス
配給:東宝東和
©2017 InterActiveCorp Films, LLC.
Merie Wallace, courtesy of A24

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