本当にドラえもんと同じ作者!?藤子・F・不二雄の異色SF短編集 パート2

レコメンド

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大人のための少し不思議な世界が多数収録

前回に引き続き、藤子・F・不二雄の成人向け作品、SF・(すこし・不思議)異色短編集のご紹介です。発表された当時と時代背景が大きく変わっている現在でも、新鮮な驚きとともに楽しめるこのシリーズですが、今回も藤子・F・不二雄らしからぬ、ブラックかつシニカルな短編5タイトルを集めてみました。

「劇画・オバQ」

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楽しかった頃には戻れない…そう悟って去り行くQちゃん

ドラえもんやパーマンと並ぶ人気キャラ、「オバケのQ太郎」を知らないという方は少ないのではないでしょうか。本作は「オバQ」の後日談が劇画タッチで描かれています。学校を卒業、就職の時期を迎え、15年ぶりに人間界に戻って来たQちゃんが大原正太(正ちゃん)と再会するシーンから物語は始まります。Qちゃんは、結婚して家庭を持った正ちゃんの家にしばらく居候することになります。しかし、正ちゃんの妻は大食らいで子供のままのQちゃんを疎ましく感じています。そんな中、かつてのガキ大将ゴジラが旧友たちに声をかけ、飲み会を開きます。そして、思い出話に花が咲き、ハカセがかねてから正ちゃんに持ちかけていた脱サラ話を軸に「子供の頃の夢よもう一度」と皆で誓い合うのでした。しかし翌日、あるニュースで事情が一変し…。
楽しかった少年時代への決別(大人になること)がテーマとなっている本作は、「オバQ」を読んだことのある「大人」にとっては、とてもせつなく物悲しいラストを迎えます。

初出:ビッグコミック1973年2月25日号

「どことなくなんとなく」

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愛する妻や子にも実在感を持てず、苦悩はさらに深まり…

主人公の天地は、妻と幼い息子とマイホームに暮らす平凡なサラリーマンです。ある時から「白い夜」の夢を見るようになり、それ以降、自分が生きているという実感を感じられなくなってしまいます。あらゆる出来事が自身のイメージの範囲内に収まる、全く変化のない毎日の繰り返し。さらに思ったことが現実化されるようになり、天地はますます苦悩を深めてゆきます。「過去も未来もない絶対無の空間に自分だけがポツンと存在する孤独感」に耐えかねた彼は、旧来の友人に誘われ登山へと出かけます。「奥さんが心配して電話をくれたので誘った」という友人の言葉さえも、昔のように「生きている!」という実感が味わえるのでは…とワラにもすがる思いで自身が考えた筋書きだと言う天地に、友人は激怒してしまいます。「自分が天地創造の造物主だと言うなら、俺を消してみろ!」と天地を殴り、さらにナイフを取り出し詰め寄る友人。そしてその後、物語は急展開し、全ての謎が解けるのですが…。
現代人に急増していると言われる精神的な疾患にも共通するテーマ、そして衝撃的なラストは一見の価値アリです。

初出:ビッグコミックオリジナル1975年5月10日号

「ひとりぼっちの宇宙戦争」

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不公平だと嘆く太郎に、敵は人間だけの武器があると言うが…

主人公「鈴木太郎」は空想好きなどこにでもいる中学生です。ところが彼は突然、地球全ての運命をかけてハデス星と戦う宇宙戦争の「代闘士」に選ばれてしまいます。惑星間の全面戦争は宇宙の国際法で禁止されたため、侵略する際には各星の代闘士が一対一で勝負することが決められていたのでした。全地球人の中から無作為に選ばれた代闘士の彼に対し、ハデス星側は、公平を期すために彼と全く同じ能力持ったロボットを代表として送り込んできます。時間が停止した特殊な空間の中で、自分自身との孤独な戦いを続ける太郎。しかし、全く同じ能力と言いながらも、恐怖やためらいといった感情を一切持たないロボット相手に次第に追いつめられてゆきます。たった一人の少年に託された地球の運命ははたして…。

初出:週刊少年サンデー1975年37号/1990年オリジナルビデオアニメ化

「分岐点」

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娘には自身と同じ道を辿ってほしくくはないと願う主人公

主人公の「茂手木」は妻子とともに暮らすサラリーマンですが、常に満たされない日々からの脱出願望を抱えています。ある夜、終業後、家には帰らずに向かった公園で「やりなおしコンサルタント」と名乗る謎の男に出会います。今の境遇は過去の選択に失敗したためと考える彼は「これまでの人生を消去し新たな人生をやり直すこと」という男の言葉に飛びつきます。しかし、スーツの内ポケットに入っていた、まだ幼い息子からの手紙に一旦は思いとどまるのでした。しかし、浮気をしていると決めつけ、狂言自殺を繰り返す妻についに愛想を尽かした彼は、再び公園の男のもとへと向かい…。
謎の男の正体、そしてラストに至るまでの過程で示されるシニカルなメッセージとは?

初出:S-Fマガジン1975年10月10日号

「みどりの守り神」

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新聞に掲載されていた驚くべき事実とは

主人公「深見みどり」は家族旅行中に飛行機事故に遭遇し、運悪く搭乗機は高山と思われる場所に墜落してしまいます。助かった彼女は森の中に生える大木の根元で目を覚まします。混乱して両親を捜すみどりを制止したのは、同じ飛行機に乗り合わせていた学生「坂口五郎」でした。生き残ったのは2人だけと知り、絶望するみどりでしたが坂口とともに救助を求めて下山をはじめます。感情の起伏が激しい坂口に辟易しながらも行動をともにするみどりは、あることに疑問を抱きます。人間はもちろん、鳥一羽すら見かけない静寂の森、そして見慣れない植物群は何を意味するのでしょうか。たどり着いた図書館のような施設で新聞を読み、2人はようやく何が起こっているのかを理解します。そしてそのとき、坂口に異変が…。

初出:マンガ少年1976年9月号/1997年オリジナルビデオアニメ化

いかがでしたか?いずれの作品も斬新な視点から衝撃、そして感動のラストへと短編ながら非常に完成度が高いものばかりですね。そして、今回紹介した5作品も初出から40年が経過しています。これらの作品を「ドラえもん」など、子供向け人気作品と並行して発表していたことに改めて驚きを感じますね。