純文学的な匂いがする漫画「夏の前日」の魅力

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漫画で純文学的な作品が読みたいと思ったことはありませんか?
今回はそれにぴったりな作品を紹介します。

どうしようもない自分勝手な男と、それに惹かれる女のどうしようもない話


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夏の暑い日、芸術大学で油絵を描く青木哲生はバイト先の画材屋で画廊に勤める年上の和服美人・藍沢晶と知り合う。絵を描いているところにたびたび現れる晶に対して当初は反感を持つが、ある雨の日、晶が取った行動から恋愛関係となる。(WIKIより抜粋)
男と女の良くある話を題材とした漫画ですが、文学的に流れていく話が非常に美しいです。
登場人物の心理描写と過程の追い方が繊細な絵で丁寧に描かれており、小説とは異なった漫画にしか出せない魅力を伝えています。


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主人公に対する晶の想い。繊細なタッチと表情の描き方が印象的。

キャラクターもいい


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女性性を感じない女友人リコ、豪快で熊のような朗らかさを持つ男友人森、そしてヒロインである年上の女性の晶、最初から目を奪われていた存在の華見。
みんな迷いつつもそれぞれの軸を持っていて生き方を探しながら、迷いながら生きてる。
たまに物語の進行を重視して、キャラクターの人格を無視するような書き方をする作者がいる中、人物のストレートでそれでいて迷っている意思が伝わってきて物語を構成する「駒」でなく、一人の「人間」としてみることが出来て良かったです。
画像は森と晶が会話するシーン。

細部にまでこだわったリアルさ


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エンターテイメント性が高い作品は、勧善懲悪で誰が悪者で誰が善人か分かりやすく、すっきりする話が多いけれど、これはありません。
登場人物はみんな短所も長所もあり、悪人がいない、誰もが普通の人だからこそすれ違うこともある。だからこそ共感してより深く物語にのめり込めます。

世界観も美大特有のナルシシズムや、大学生特有のモラトリアムさが出ていて、自分がまるでその世界の登場人物になってしまったかのような錯覚に陥ります。
吐く息が白くなること、ひまわりや桃、学生の会話を聞いて季節の変わり目を意識し、「これが現実なんだ」と思ってしまうほど、臨場感にあふれています。

巻数も全5巻と短すぎず、長すぎず一気に読める長さで、読み終わった後には心地よい疲労と寂寥感が残ります。読み返す度に余韻に浸ることが出来るかなりの良作です。
気になった方は読んだ後に短編集もお勧めです。