本当にドラえもんと同じ作者!?藤子・F・不二雄の異色SF短編集 パート3

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藤子・F・不二雄の成人向け作品、SF・(すこし・不思議)異色短編集。ほのぼのとしたタッチでシニカルなストーリーが描かれる作品が多く見られますが、今回は「未来」そして「希望」をテーマとした5タイトルをピックアップしました。

「宇宙船製造法」

宇宙船製造法
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宇宙船の修理を否定し、ここで定住すべきだと主張する「志貴杜」

光速宇宙船による惑星間旅行がレジャーとなっている、はるか未来の世界を舞台に物語は始まります。春休みを利用して、ヨット型宇宙船で銀河系横断を楽しんでいた8人の若者たちはワープ中に発生したトラブルで辺境の無人惑星に不時着します。エンジンなどの機関部は無事だったものの、居住区が壊滅状態となった宇宙船を前に若者たちは途方に暮れます。
惑星は重力や気候など、地球によく似た環境ではあるものの文明は存在せず、救助も期待できない中、8人は今後の方針について話し合います。
宇宙船を何とか修理する方法を考えようとする「小山」と、見込みのないことに注力はせず、あきらめてこの星で生きてゆくしかないと訴える「志貴杜」。両者の意見は対立しますが、他のメンバーは「志貴杜」に賛同、自給自足の生活を始めます。しかし、暴力的な性格の「堂毛」は傍若無人にふるまい、唯一の武器である熱線銃を手に秩序を乱す行動を続けます。そして衝突の結果、グループは「志貴杜」をリーダーとしてまとまりを取り戻すのですが、それは新たな問題の始まりでした。暴力的な罰則まで課せられた、あまりに厳格なルールを徹底する「志貴杜」は半ば独裁者と化し、他のメンバーは困惑を隠せません。そんな時、「小山」は宇宙船を修理するための画期的な方法を思いつくのですが、それは危険な賭けとも取れる方法でした。

初出:週刊少年サンデー1979年8号/1990年オリジナルビデオアニメ化

「宇宙からのおとし玉」

宇宙からのおとし玉
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どこか「のび太」を思わせる主人公と、宇宙人タマゴン

新年を迎えた1月3日、予想を下回るお年玉の額に渋い顔をする主人公。「暗い一年になりそうだ」と考える彼にはもう一つの理由がありました。漠然と感じるある不安がだんだんとハッキリした形となってきている…それは淡い恋心を抱く幼なじみの少女でした。成長とともに遠くなってゆく互いの距離を感じていた彼は、彼女が年上の大学生に惹かれていることを知り、公園で無常感に苛まれます。
そんな時、キラキラと光りながらゆっくりと落ちてくる球体を見かけ、彼は落下地点へと向かいます。謎の球体を「タマゴン」と名付け、持ち帰った彼は自身が感じる虚しさへの答えとも取れる不思議な声を聞きます。そんな中、「タマゴン」をきっかけに臨時収入や、新たな友だちとの出会いといった幸運を感じる出来事が続き、彼は明るさを取り戻すのでした。
そしてある夜、こつ然と姿を消した「タマゴン」を探しに外へ出た彼は驚くべき光景を目にします。「タマゴン」の正体は宇宙人で、UFOから降りて宇宙空間を遊泳していたところ、地球の重力圏に引き込まれたのです。
自身の飛行能力では地球の引力から脱することができないと言う「タマゴン」と家に戻る途中、彼は大学生と幼なじみのキスシーンを目撃してしまうのでした。ひどく傷つき、泣きながら帰る主人公を慰めるため「タマゴン」は一計を案じます。そして少年は「タマゴン」が宇宙へ戻るためのアイデアを思いつき…。

初出:別冊コロコロコミック1983年1月1日号

「あのバカは荒野をめざす」

あのバカは荒野をめざす
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27年前の自分自身を説得しようとする主人公

ある年の大晦日、除夜の鐘が響き渡る中、地下街の入口でホームレスの中年男性が新年を迎えていました。そこへもう一人、若いホームレスと思しき男性が現れ、彼に声をかけます。若いホームレスがルポライターであることを看破した彼は、取材に応じても良いが時間がないと語ります。誰もが知る一部上場企業の御曹司として生まれたが若気のいたりで、ここまで落ちぶれたと語る彼は、過去を悔やむ発言とともに次こそは殴ってでも説得する…と言い残し、唐突に姿を消します。混乱するルポライターを残して…。
次の瞬間、彼は27年前の実家の通用門の前に立っていました。タイムスリップしたことを確信した彼は、通用門から静かに家を出る若き日の自分自身を見つけます。いぶかしげな表情で何者なのか?と尋ねる27年前の自身の言葉に涙を流す主人公。そして自分自身の失敗を止めたい、その一念で過去へと逆行してきたと告げるのですが、情熱に燃える若き日の自分自身は耳を貸すことなく去ってゆきます。男はあきらめず別の方法で未来を変えようとするのですが…。

初出:ビッグコミック1978年1月10日号

「値ぶみカメラ」

値ぶみカメラ
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カメラを売りに来た「ヨドバ」氏は他の作品にも度々登場

主人公「竹子」は野鳥の撮影を趣味とするカメラマン志望の地味な女性です。実家の骨董品店の常連客である青年実業家「倉金」から好意を寄せられているものの、玉の輿を期待する母親に反して本人はあまり乗り気ではありません。仕事仲間のフリーカメラマン「宇達」も彼女に想いを寄せてはいるものの、現在の収入では生活してゆくことさえままならない状況です。そんなある日、「ヨドバ」と名乗る謎の男が実家の店へカメラを売りたいと訪れるます。珍品はお断りと、追い返されたヨドバが持つカメラに興味を持った竹子は彼に声をかけ自室へと招き入れるのですが、それは見たこともない奇妙なものでした。
あらゆる時代の、あらゆる価値観に対応する情報がインプットされているという「値ぶみカメラ」は、被写体の原価・市場価格・将来算出する利益、そして自身にとっての主観的価値の4つを表示できるという機能を備えたカメラです。説明途中に母親に見つかったヨドバは逃げ出し、カメラを預かった竹子のもとへ倉金が訪ねて来てコンサートへと誘い、2人は出かけて行きます。帰り道の公園でプロポーズする倉金を値ぶみカメラで撮影する竹子は、将来算出する利益に驚きを隠せません。そこへ宇達が現れ、彼女は2人のどちらを選ぶか選択を迫られます。そして宇達も同様に撮影する竹子は果たしてどちらを選ぶのか…。

初出:ビッグコミック1981年11月25日号/2008年ドラマ化(主演:長澤まさみ)

「一千年後の再会」

一千年後の再会
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絶望したジョウは宇宙の彼方へと旅立つことを志願する

「盲亀の浮木」という中国の古いことわざの説明から物語は始まります。近未来の地球、宇宙航行が可能となり、タイムマシンの完成も時間の問題と言われる中、恋人同士である「ジョウ」と「ウバ」は深刻な面持ちで話し合いをしていました。ほんのささいな行き違いを極度に広げようとするウバは、ジョウと離れたいという動機だけでタイムマシン試作機「ST-08」有人テストへの搭乗を希望します。行き先は一千年後の未来、時の壁を隔ててでもジョウを忘れたいというウバにジョウは困惑し、絶望の涙を流します。
自暴自棄となった彼もまた、宇宙の彼方へと旅立つ「コロンブス計画」の航宙士へと志願します。出発時刻はタイムマシン有人テストの開始時間に合わせてほしい…唯一の希望を伝えたジョウは航宙士に採用され、2人は「千年の時」と「千光年の距離」に隔てられた、史上最大の別離をすることになるのでした。出発直前、ウバはタイムマシン開発の責任者である局長から衝撃の事実を伝えられます。「ウバを実験台とするため、ジョウに対する感情に人為的な心理操作を施した」…功を焦る局長の、あまりに無情な告知にウバは自らの感情を取り戻しますが、既にマシンは作動を開始し、ジョウもまた宇宙へと旅立ってしまいます。ウバの名を叫びながら…。

初出:奇想天外1976年4月号

今回、いずれの作品もラストについては伏せていますが、それぞれが「未来」と「希望」を示唆するものとなっており、爽やかな読後感を味わえます。3回に渡ってご紹介してきた「藤子・F・不二雄の異色SF短編集」ですが、まだまだ紹介しきれないほどの名作が存在します。興味のある方は、自分のお気に入りの作品を探してみるのも面白いかもしれませんね。