ジブリの難解映画『風立ちぬ』は何を伝えたい映画なのか、解説がおもしろい!

レコメンド

スタジオ・ジブリ制作『風立ちぬ』とは

『風立ちぬ』は、ジブリアニメ制作、宮崎駿監督作品の長編アニメーション映画として2013年公開されました。公開後賛否両論が巻き起こって話題に。まず最初に批判意見を挙げてみると●主人公の声が棒読み。主人公の性格は妄想しがちでぼんやりしていて掴みづらい●ストーリーがわかりづらい。エンターテイメント性が乏しい●全体的にスカッとしない●たばこを吸いすぎ●悪名高いゼロ戦を美化しすぎているように見える等のマイナス評価があります。こういった感想が出ることから、この映画が決して万人受けする映画ではない事、トトロのような明るく楽しい映画ではない事がわかります。しかし、『風立ちぬ』には、探れば探るほど見えてくる深みもあるんです。『風立ちぬ』を解説している映画評論家は沢山います。そしてこの、見る側が真実を探らなければ分からないような、ある種ピカソの絵的な難解映画のなぞ解きをしてくれる解説が、とてもおもしろいんです。

菜穂子と二郎の、噛み合わず切ない夫婦愛


二郎は正義感の強い親切な青年でした。そんな二郎の男気に惚れた菜穂子は、二郎のことをまっすぐに愛しています。しかし二郎はといえば、菜穂子を思いやっているようには見えますがどちらかといえば自分の仕事で頭がいっぱいで、結核にかかった菜穂子をほったらかし状態です。しかも病気の菜穂子のすぐ隣でタバコを吸うという無神経さ。そんな二郎なのに菜穂子は彼への愛をとても感じていて切ない。自分の死期を悟った菜穂子は最後はひっそりと家を出て人知れず死ぬことを選びます。二郎は風の知らせで菜穂子の死を悟り、自分の夢の中で彼女からのメッセージを受け取りました。菜穂子への愛を再確認したのでしょうか。失った時に妻の大切さに気付いたのでしょうか。映画製作にかかわったクリエーターの誰かの家庭にありえそうな夫婦関係で、妙なリアルさを感じますね。

声優に演技の初心者を起用した理由とは


映画評論家町山智弘さんの解説を参考にすると、主人公の二郎は宮崎駿自身の投影ともいえる存在であり、人の心の機微に少し疎いようなタイプの人間です。そんな二郎を演じるのは、感情豊かで、あらゆる心情表現を声色で表すことのできるプロ声優ではなく、むしろ庵野監督が適していました。演じる人物の人となりや内面の重なりを重視した配役だったようです。

もともとは漫画の連載だった


ホビー雑誌「月刊モデルグラフィックス」で連載されていた漫画が『風立ちぬ』の直接の原作です。『風の谷のナウシカ』と同じパターンですね。更に、この漫画のモデルとしては実在の人物「堀越二郎」や、「堀辰雄」のストーリーを織り交ぜてあります。

夢の中の人は誰?


イタリアの伯爵カプローニは実在の人物で、第二次世界大戦の戦闘機をつくった人でした。映画では二郎の夢の中にのみ登場します。二郎とカプローニはお互いの夢の中で交流していたという不思議な設定になっており、現実と空想の両方が存在する魔法のような世界観が描かれています。同じジブリ映画『耳をすませば』の雫が、自分の物語の世界に浸っているのと似た演出でした。また『ハウルの動く城』でも時々夢が入るというシーンがありました。主人公の夢中なものや、深層心理を表す独特の世界ですね。

飛行機にあこがれた少年のロマン


二郎が「美しい」というセリフを多用するのが印象的です。彼は魚の骨の曲線を見て、飛行機の翼を思い浮かべ美しいと言います。飛行機の魅力に取りつかれていて、飛行機が好きでたまらない青年でした。戦争の惨禍に巻き込まれている時でさえも、飛行機の飛ぶ姿を空想している二郎の情熱は、子供時代から大人になってまでずっと飛行機に注がれ続けました。

戦争賛美?戦争反対?どっちだろう。

honjo
『風立ちぬ』はゼロ戦を美化したようなシーンがあります。しかし同時に戦争の悲惨さを描いたシーンもありました。二郎のゼロ戦設計が完成しお祝いムードになる中、菜穂子の死を知らせるような風が吹きます。また美しくゼロ戦が飛ぶシーンがありますが、二郎の夢の中では飛行機はなんども壊れ空中分解し墜落します。菜穂子と出会った時の関東大震災のシーンでも、気味の悪い地割れや家が崩れる描写、赤ちゃんの泣き声や不気味な金切り声の悲鳴が入ります。戦争の悲惨さを知っていて現実的には反戦だけれど、ドラマとしての戦争には、どうしてもロマンを感じてしまうような矛盾したメッセージを与える映画でした。

『風立ちぬ』の解説を読めばすごくおもしろい!自分なりの解釈を考える楽しみ方も!


『風立ちぬ』について、一般の観客からの評判はイマイチのようですが、映画業界の関係者からは絶賛されているという二極化現象が起きています。高い評価をつけた人たちはこの映画を解説する面白さを味わったのかもしれませんね。ぜひ『風立ちぬ』をみて、あーでもないこーでもないと深読みしてみて下さい。

© 2013 Studio Ghibli・NDHDMTK