山田風太郎とせがわまさき・第二弾「Y十M 〜柳生忍法帖〜」其の壱

レコメンド

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江戸初期を舞台に繰り広げられる、壮大な復讐劇

今回は、原作・山田風太郎&漫画・せがわまさきの異色時代劇コミカライズ第二弾「Y十M 〜柳生忍法帖〜」のご紹介です。キャッチコピーは「因果応報、奉らん」。
江戸時代前期に実際に起こった会津藩の内紛「会津騒動」に端を発した女性たちの復讐劇は、2005年〜2008年にかけて週刊ヤングマガジン(講談社)に連載され、コミックスは全11巻で完結、好評を博しました。
タイトルは、主人公の主人公の柳生十兵衛三厳(Y=柳生、十=十兵衛、M=三厳)からとられています。

お家騒動から三年後…堀一門を襲うかつての主君

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会津七本槍、そして主君に復讐を誓う七人の美女たち

前作「バジリスク~甲賀忍法帖」から28年後、三代将軍・家光の徳川幕藩体制による全国統治が固まりつつある、寛永19年から物語は始まります。東海道の平塚宿を往く罪人たちと、それを連行する一行がありました。
一見、僧侶に見える罪人たちは元会津藩の家老「堀主水」とその一門です。寛永16年の会津騒動で、主君である「加藤明成」と対立し、藩を出奔した彼らは高野山へ、また、ゆかりの女性たちは鎌倉にある尼寺「東慶寺」へとそれぞれ身を寄せていました。しかし、主君への謀反など許されないこの時代、堀一門は主君の元へと引き渡され、捕縛されたまま江戸の会津藩加藤屋敷へと連行されていたのでした。連行する役人たちは通称「会津七本槍」と呼ばれる、藩でも指折りの武芸の達人たちです。
江戸の加藤屋敷に向かう前に鎌倉に立ち寄ると聞き、愕然とする堀主水。「東慶寺」は360年の歴史を持つ男子禁制の尼寺であり、縁切寺でもありました。一行は寺の門前へと着き、七本槍は住持である天秀尼に対し、堀一党に最期の別れをさせてやるために来たと告げます。しかし、そこには恐るべきたくらみが隠されていました。

男子禁制の尼寺で巻き起こる惨劇

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会津七本槍の一人「漆戸虹七郎」は片腕の剣士

東慶寺の住持・天秀尼は、会津七本槍の堀一門に対する冷酷な扱いから罠と看破し、門を閉じるように命じます。しかし会津側は強引に門を破り、天秀尼を人質にする形で堀一門の女性たちに出て来るよう迫ります。そして女性たちは姿を現し、かつての夫婦や家族たちはつかの間の再会を果たすものの、そこから惨劇が始まります。
夫や兄弟を斬るのかと心配する女性たちに七本槍の一人「漆戸虹七郎」は「斬るのは女の方だ…」と言い放ちます。そして、七本槍たちは人間業とは思えない術で女性たちを次々と惨殺してゆきます。
なす術もなく涙を流す女性たちが残り七人となったその時、豊臣家の家紋を掲げた駕篭が到着し、中から一人の女性が姿を現します。彼女こそが東慶寺の後見人であり、三代将軍・家光の姉でもある天樹院こと「徳川千姫」でした。寺の男子禁制法に故・徳川家康のお墨付きまで取り付けた千姫の言葉に、会津七本槍も引き下がり、七人の女たちは九死に一生を得ます。そして千姫は「必ずや女人の手によって厳しき罰が下されようぞ」とつぶやくのでした。

悪鬼と美女の戦いを陰でサポートする伝説の剣豪

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敵の実力を探りながら美女を鍛える方法を思案

そして十日後、鎌倉街道を行く二人の男の姿がありました。一人は品川・萬松山東海寺の住職「沢庵宗彭」、そしてもう一人が本作の主人公である「柳生十兵衛三厳」です。千姫の依頼で東慶寺へとやって来た二人は、江戸の加藤屋敷へと連行された堀一門の二十一人はすでに罪人以下の残酷な方法で処刑されたことを聞かされます。
十日前の惨劇で犠牲になった尼は二十三人、合わせて四十四の位牌の前で、沢庵和尚は将軍へ直々に訴え出るのが上策ではないかと進言します。しかし千姫はそれを是とせず、むしろ将軍家から加藤家にお咎めがあるならばそれを差し止めたいとまで言います。男の力は借りず、女の城である東慶寺を穢した七匹のけだものは、生き残った七人の女の手で討ち果たさねばならない…その上で加藤家をたたき潰すと力強く語るのでした。
そう言いながらなぜ男二人を招いたのか?それは沢庵和尚に、女性七人を仇討ちができるまでに育て上げることのできる師匠を連れて来てほしいと願い、そこで選ばれたのが十兵衛だったのです。

厳しくも優しく、そして大らかな十兵衛に惹かれる美女たち

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剣には強いが女心が全く分からず機嫌を伺う(笑)

達人揃いの七本槍に対して、優雅細腰の美女を百年指南しても太刀打ちできるとは思えないが、美女を鵜に見たてて鵜匠となるのも面白そうでござる、と十兵衛は話を受けます。美女相手と浮かれての安請け合いでは困る、と諌める千姫でしたが、命と女の操も捨てる覚悟が必要であり、さらに後見はしても自身は敵には一切手を出さないことを言い放ちます。
こうして兵法軍学の指南役として東慶寺にとどまることとなった十兵衛のもと、厳しい修行が始まります。七人の美女たちは当初こそ反発していましたが、十兵衛の「剣をとっては江戸に並ぶ者無し」と言われた実力、そしてその人柄に次第に惹かれてゆくのでした。しかし天才的な実力とは裏腹に、女心に疎い十兵衛はまったくそれに気付くことがありません。やがて江戸から会津へ舞台を移しながら、美女たちの復讐劇は展開してゆきます。

本当に守るべきものとは何なのか?

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獰猛な表情で啖呵を切る十兵衛

原作未見の方のためにここでは詳細は伏せますが、物語の終盤、十兵衛はある事情から勝ち目は無いと悟った沢庵和尚より、堀一族の女性と共に死んでくれと懇願されます。そうしないと徳川家の存続に関わると…。自身の死はもとより覚悟の上、しかし何故?と尋ね事情を知った彼は「拙者はともかく左様な理由であの女たちを死なせることはいやでござる!」と答え、逆に師である沢庵に問いかけます。
女たちを見殺しにする士道、そして仏法に何の意味があるのか?と。そして、そんなことすら忘れた徳川家など滅んでしまって構わないと言い放つのでした。今さらですが、彼の父は将軍家の重臣・柳生宗矩です。この名セリフが敵方のある人物に大きな影響を及ぼし、物語はさらに加速してゆきます。

現代にはなかなかいそうにもない、豪快かつ優しく強い男性像「柳生十兵衛」。「バジリスク~甲賀忍法帖」と同様に、50年以上も前に執筆された原作において、現代で言うところの能力バトルやハーレム要素を取り入れていることに改めて驚かされます。
本作のヒットに伴って小説版が再販され、そのカバー作画をせがわ氏が担当するということからも、山田氏とせがわ氏のタッグは非常に相性が良いことが伺えますね。