CinemaGene(シネマジーン)

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国民的ギャグマンガから始まった古谷実が紡ぐ独特の世界観

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出典:http://jin115.com/archives/51974036.html
デビュー作にして最大のヒット作”稲中”こと「行け!稲中卓球部」

古谷実と聞いてピンとこなくとも、”稲中”と聞けばご存知の方は多いのではないでしょうか。1993年、21歳という若さで週刊ヤングマガジンの「行け!稲中卓球部」でデビュー、思春期の少年・少女たちの日常を描いたギャグ漫画は爆発的ヒットを記録し、アニメ化もされました。その後、デビュー作を含めて8つの作品を発表しますが、純粋なギャグ漫画は稲中のみで徐々に作風が変化してゆきます。全ての作品に一貫しているテーマは、登場人物たちが閉塞された状況でもがき苦しみ、それをどう打破してゆくのかということです。
そこにはどのような作者からのメッセージが含まれているのでしょうか。

行け!稲中卓球部(週刊ヤングマガジン連載・全13巻)

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出典:http://www.u-stat.net/stat.php?id=253
90年代を代表するギャグ漫画の金字塔

稲豊市立稲豊中学校を舞台に、6人の部員が所属する男子卓球部。思春期真っ只中の下品なキャラクターたちが繰り広げる日常は、ギャグだけでなく恋愛などもテーマにした青春群像劇と変化してゆき、男女を問わず大人気となりました。今、読んでも笑いの質に古さは感じることはなく、多くのギャグ漫画に影響を与えたと言われています。そして今もなお、古谷実の最高傑作として推す声も多いようです。1996年、第20回講談社漫画賞一般部門を受賞しました。

僕といっしょ(全4巻)/グリーンヒル(全3巻)※ともに週刊ヤングマガジン連載

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出典:http://www.kom10.com/?cat=20
「グリーンヒル」の主人公・関口(右)とリーダー

【僕といっしょ】
義父の虐待に耐えかねて、家出をした中学生と小学生の兄弟の、東京での居候生活を描いた本作は、ベースはギャグ漫画ですが、家庭崩壊や同性愛、学歴社会、自殺といった「人生とは何か」というテーマを少年少女の視点で描いています。

【グリーンヒル】
面倒くさがりの大学生「関口」と、所属するチームの日々を描いた作品。こちらもギャグ漫画をベースとしているものの、独特の世界観で漠然とした将来への不安や葛藤を描き、物語は唐突に終わりを迎えます。登場人物から「僕といっしょ」の数年後が舞台と推測できます。

ヒミズ(週刊ヤングマガジン連載・全4巻)

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出典:http://gurange.blog.fc2.com/blog-entry-1475.html
立派な大人になりたかっただけの少年に起こる悲劇

「笑いの時代は終わりました…。これより、不道徳の時間を始めます」。キャッチコピーにもあるように、ここで大きく作風が変化しました。中学生の主人公「住田祐一」は平凡な生活を送ることだけを夢見ています。しかし蒸発後、突然戻ってきた父親、父親の借金を取り立てに来た暴力団からの理不尽な暴力、そして男と共に失踪してしまう母親…。少年を取り巻く環境はあまりに過酷なものでした。衝動的に父親を殺害し、普通の人生を送ることを諦めた主人公はある計画を立てます。そんな彼に想いを寄せるクラスメイトの「茶沢景子」は、彼が殺人起こしたことを知っても、なお救い出そうと奮闘します。しかし、その想いとは裏腹に、住田の人生は深い絶望に落ちてゆき…。
2012年に映画化され、こちらも話題となりました。

ヒメアノ〜ル(週刊ヤングマガジン連載・全6巻)

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出典:http://mannequinboy.hatenablog.com/
中学生の森田は自身が普通でないと自覚し絶望する

主人公の岡田進と、その友人である安藤勇次の恋愛話と並行して、もう一人の主人公である、岡田の元同級生・森田正一の快楽殺人犯としての日々を描いた本作。かつていじめられっ子だったという過去を持つ森田は、人の首を絞めることで性的欲求を満足させるという嗜好の持ち主でした。岡田の彼女であるユカをターゲットに定めたことで、予期せず再会を果たす岡田と森田。予想外の出来事に焦る森田は徐々に暴走をはじめ、かつてのいじめられっ子仲間やアパートの隣人にまで手をかけてゆきます。
物語の終盤、森田が中学生にして「自分は普通じゃない」と自覚し、涙を流すシーンが印象的です。2016年に実写映画が公開予定です。

サルチネス(週刊ヤングマガジン連載・全4巻)

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出典:http://doranekodoradora.blog123.fc2.com/
独特の雰囲気を醸し出す主人公タケヒコ

キャッチコピーは”残飯おとこ一代記”。2012年から2013年にかけて連載された現時点での最新作です。主人公の中丸タケヒコは、生まれてから5歳までを養護施設で過ごし、父親を全く知らず母親とも数日しか生活していないという少年期を送りました。14歳から17年間、引きこもり生活を続けるも、妹の幸せを常に最優先に考えています。一方で、小学校教諭を勤める妹も幼い頃から自分を守ってくれた兄の幸せを願っており、そんな生活が淡々と描かれます。本作では久々にギャグ回帰路線の作風が随所に見られ、不器用ながらも成長したタケヒコが最終回で発する言葉が読後に清々しい余韻をもたらせてくれます。

今回紹介したもの以外にも「シガテラ」や「わにとかげぎす」など、いずれも評価が高い作品を量産し続ける古谷実。彼こそが”稲中”から続く、閉塞感を打破できる方法を自身の作品で探し続けているように思えます。そして「サルチネス」で一応の区切りを迎えたと考えるのは都合が良すぎるでしょうか。天才と呼ばれる作者が次にどんな作品を発表してくれるのか、今から楽しみです。

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