意外と多い?兄弟姉妹で作品を手掛ける監督たち

レコメンド

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出典:http://edamamecinemas.blogspot.jp/

海外では、兄弟姉妹で監督をされているケースが意外と多く、しかも素晴らしい作品を数多く残されています。ここでは「兄弟姉妹監督の名作」をテーマに、エピソードなどもふまえてご紹介します。

『マトリックス』で一躍名監督の仲間入りをしたウォシャスキー兄弟。

Larry Wachowski and Andy Wachowski (aka The Wachowski Brothers), writers/directors of "The Matrix" trilogy (Photo by Bob Riha Jr/WireImage) *** Local Caption ***
出典:http://www.cinematoday.jp/page/A0004491
ウォシャウスキー兄弟

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出典:http://freedom-na-sekai.com/matrix
『マトリックス』の一場面

1999年『マトリックス』のメガヒットにより、近年まれにみる大成功を手にしたのが、ラリー・ウォシャウスキーとアンディ・ウォシャウスキーの兄弟です。監督としてわずか2作目、映画の歴史を変えたと言っても過言ではないこの作品で、彼らの人生は一変します。
CGだけではなく、VFXを駆使し、それまで想像したこともない映像世界で観客の度肝を抜いたこの作品は、続編の『マトリックス・リローデッド』『マトリックス・レボリューション』も立て続けにヒットし、あらゆるメディアを巻き込み社会現象とまで言われました。
また、「日本のアニメにも影響を受けている。」と語った2人は、次作として1960年代に日本で大ヒットしたアニメ「マッハGoGoGo」を実写化した『スピード・レーサー』を発表しますが、興行成績は芳しくなく、失敗作と言われています。

ウォシャスキー「兄弟」から「姉弟」へ。

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出典:http://edamamecinemas.blogspot.jp/2015/04/10.html

幼少時からトランスジェンダーだった兄、ラリーは、様々な噂から逃れるように、2003年以降公の場に姿を現さなくなっていました。ところが2012年に公開された『クラウド・アトラス』の解説映像に女性の姿で登場し、自らカミングアウトしたのです。その勇気を賞賛した全米最大のLGBT団体から表彰を受け、授賞式では過去に受けたいじめや自殺未遂についても赤裸々に告白しました。
2008年の『スピード・レーサー』制作後に性別適合手術を終えていた彼女は、以降ラナ・ウィシャウスキーと名前を変え、女性として活動を続けます。これによってウィシャウスキー「兄弟」は「姉弟」へと変わったのです。

ウォシャウスキー姉弟の最新作、『ジュピター』

『ジュピター』映画オリジナル予告編

ウォシャウスキー姉弟の最新作、『ジュピター』が2015年に公開され、『マトリックス』以来16年ぶりのオリジナルストーリーとして、大きな話題となりました。
全く冴えない平凡な生活をしていた女性、ジュピターは、実は宇宙を変化させる可能性のある遺伝子の持ち主でした。異星人からつけ狙われる彼女を守る為、宇宙から屈強な男性戦士が派遣されます。2人は宇宙の覇権争いに巻き込まれ、壮絶な戦いが始まります…。
ウォシャウスキー姉弟らしく、最新のVFXを駆使した映像は『マトリックス』以来の衝撃です。また、過去のSF作品への深いリスペクトを感じている2人は、オマージュと思われる場面をあちこちに散りばめています。一つご紹介すると、SF映画のルーツ『2001年宇宙の旅』の宇宙ステーションが登場しています。是非探してみてください。

オスカーとパルム・ドールを両方受賞したコーエン兄弟。

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出典:http://eiga.com/news/20111007/14/
(左)兄のジョエル・コーエン(右)弟のイーサン・コーエン

『マトリックス』シリーズのみが突出して人気を得たウォシャスキー兄弟に対し、長期間に渡って素晴らしい作品を継続して発表し続けているのが、ジョエル(兄)とイーサン(弟)のコーエン兄弟です。大学卒業後に発表した処女作『ブラッド・シンプル』は、当然のごとく低予算の映画でしたが、各方面で高い評価を受け、「インディー映画のアカデミー賞」と言われるインディペンデント・スピリット賞を受賞しました。これをきっかけに、20世紀フォックスとの契約にこぎつけた2人は、潤沢な予算を得て、次々とヒット作を連発。1991年『バートン・フィンク』でカンヌ映画祭パルム・ドール他3部門を受賞し、1996年『ファーゴ』ではアカデミー脚本賞とカンヌの監督賞を同時受賞するなど、数々の輝かしい受賞歴があり、今やハリウッドを代表する名監督として確固たる地位を確立しています。
独特の作風をもっており、作品によっては「複雑でわかりにくい」「暗い」など、評価が真っ二つに分かれるものもありますが、逆にそれがハマる要素となり、熱狂的なファンも多く存在します。

意外な論争を巻き起こした名作『ファーゴ』

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出典:http://plaza.rakuten.co.jp/

前項でもご紹介しましたが、『ファーゴ』は、カンヌ映画祭監督賞、アカデミー賞脚本賞を受賞した名作です。自動車セールスマンの男が、自身の借金返済の為に妻を狂言誘拐し、富豪であった彼女の父親から身代金を奪う計画を立てます。ところが計画実行の日、犯人役で雇ったチンピラ二人組が、警察官や目撃者を殺害してしまい、坂道を転げ落ちるように状況はは悪化の一途をたどり、事態は最悪の結末へ…。
シリアスなサスペンスにもかかわらず、あまりにも滑稽な犯人にクスッと笑えたり、ストーリーと関係のない話がカットインしてきたり、コーエン兄弟ならではのブラックな演出が随所に見られます。その最たるものが、映画の冒頭の部分。「This is a true story.(これは実話です)」というテロップが流れるのですが、後日、「フィクションだ!」「いや、実は事件のあった街がイメージダウンを懸念してフィクションと言っているだけ」など様々な論争を巻き起こし、これもコーエン兄弟の狙いでは?とまで言われました。
エンドロールの最後にこんなテロップが出てきます。「The persons and events portrayed in this production are fictitious・・・(ここに描かれた人々・事件はフィクションです)」
映画を見る時は、必ずエンドロールまで見ましょう。コーエン兄弟、恐るべし。

夫婦そろってアカデミー賞を受賞。

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出典:http://yansue.exblog.jp/16422547/

『ファーゴ』で誘拐事件の捜査を担当する女性警察署長を演じているのが、フランシス・マクドーマンド。彼女はこの演技でアカデミー賞主演女優賞を受賞しました。
1984年にコーエン兄弟の処女作『ブラッド・シンプル』で映画デビューを果たし、プライベートでも1994年に兄、ジョエル・コーエンと結婚しました。本作で夫ジョエルはアカデミー脚本賞を受賞しており、夫婦そろっての受賞となりました。

2015年、ついにカンヌ映画祭の審査委員長に!

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出典:http://cinefil.tokyo/_ct/16824100
2015カンヌ映画祭、審査委員会見(中央がジョエル、その右がイーサン)

パルムドールに加え、3度の監督賞を受賞したカンヌ映画祭で、2015年、ついに審査委員長を務める事になったコーエン兄弟。しかし、パルムドールに選出した作品『ディーパン』を巡って評論家やメディアから異論が噴出、授賞式でもブーイングが起きるなど荒れ模様となりました。コーエン兄弟は「審査は評論家のためにやっているのではない」と毅然とした態度で反論し、話題性ばかりを重視する傾向に一石を投じました。審査委員長としても「らしさ」を存分に発揮したと言えるのではないでしょうか。

カンヌ映画祭の常連監督、ダルデンヌ兄弟。

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出典:http://www.cinemacafe.net/
(左)弟のリュック・ダルデンヌ(右)兄のジャン=ピエール・ダルデンヌ

ベルギー出身の世界的名匠、ダルデンヌ兄弟。カンヌ映画祭でパルム・ドール2度を含む、主要賞を5作連続で受賞するなど、数々の素晴らしい作品を発表してきました。
彼らの作品には、子供に関する社会問題をテーマにしたものが多く、『少年と自転車』では育児放棄を、『ロゼッタ』ではトレーラーハウスで貧困生活を送る少女を、その他にも同様の作品は多数あり、彼らなりの手法で観る者に強烈なメッセージを送り続けています。

ダルデンヌ兄弟の最新作『サンドラの週末』

『サンドラの週末』映画オリジナル予告編

2015年に公開されたダルデンヌ兄弟の最新作『サンドラの週末』。これ迄様々な社会問題を扱ってきた二人が、今回は雇用問題に切り込みました。
病気で休職をしていた女子社員サンドラが、復帰直前に突然解雇通告を受けます。それは、他の従業員にボーナスを支給する為でした。解雇を撤回させるには、同僚16人の過半数以上にボーナスを諦めさせなければなりません。ボーナスとサンドラ、どちらを選ぶか、月曜日の社員投票に向けて、必死の説得を試みる『サンドラの週末』が始まりますが…。
兄のジャン=ピエールはこの映画について、「誰にでも希望の光があり、人間には良心があるんだと言い続けたい。」と語りました。そんな彼らの想いがしっかりと心に響く作品です。

ダルデンヌ兄弟が好きな映画に、河瀬直美監督の『2つ目の窓』が選ばれました!

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出典:http://www.riverbook.com/
『2つ目の窓』の河瀬直美監督(右)と主演の吉永淳(左)

昨年、『サンドラの週末』のPRのために来日したダルデンヌ兄弟。その際に彼らがオススメする映画として、「女性がたたかう映画」「2000年代公開で好きな映画」が10本ずつ発表されました。後者10本の中に、河瀬直美監督の『2つ目の窓』が選ばれ、大きな話題になりました。この作品は、河瀬氏のルーツが奄美大島にあると祖母に聞いた事がきっかけで作られた、奄美大島に生きる少年少女を中心とした物語。河瀬監督自ら「最高傑作」とまで語っており、2014年カンヌ映画祭では公式上映もされています。

カリスマ的な魅力を持つ監督、アキ・カウリスマキ。

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出典:http://henry.ti-da.net/
アキ・カウリスマキ(弟)

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出典:https://ja.wikipedia.org/
ミカ・カウリスマキ(兄)

フィンランドの巨匠、アキ・カウリスマキは、映画評論家を経て映画製作に携わるようになり、1980年、兄ミカ・カウリスマキの監督作品に出演した事をきっかけに、自身でも監督をやりたいという思いが強くなったようです。1983年に初の長編作品『罪と罰』を発表し、以降も評価の高い作品を発表し続ける一方、「本当の映画は光だが、デジタルは電気だ」「ハリウッドは幼稚園だ」など、過激な発言でも知られ、ある種カリスマ的な魅力も持っています。
2002年、ニューヨーク映画祭に招待されていたイラン人のキアロスタミ監督が、同時多発テロの影響で米政府から入国拒否を受けた際、「米国防長官はキノコ狩りでもして気を鎮めるべきだ。文化の交換が妨害されたら何が残る?武器の交換か?」と発言し、自身も招待されていた同映画祭への参加をボイコットしました。彼らしい、強烈ですがウイットに富んだ発言ですね。
作品の特徴としては、とにかくセリフが極端に少なく、大げさな表情もない、それが逆にリアル感を増し、独特の雰囲気を醸し出します。ブラックユーモアのセンスも抜群で、ともすれば静か過ぎて重くなる作品を和らげる効果となっています。

小津安二郎へのリスペクト満載の『過去のない男』

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出典:http://fukuyoka.exblog.jp/page/10/
『過去のない男』のシーン。「赤」が印象的です。

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出典:http://quampaney.exblog.jp/14179246/
小津安二郎監督『彼岸花』に頻繁に登場する赤いヤカン。

2002年カンヌ映画祭でグランプリ・主演女優賞を受賞した『過去のない男』。
ヘルシンキで暴漢に襲われ、記憶喪失となった男が、救世軍の女性と出会い、恋に落ちます。優しい人々にも支えられ、明るい心を取り戻していた矢先、強盗事件に巻き込まれ、新聞に掲載された彼の記事を見た彼の妻から連絡が入ります…。
アキ・カウリスマキの作品らしく、淡々と進んでいく物語の中で、「人生いつだってやり直しはきく」という彼の強いメッセージが感じられ、見終るとポジティブな気持ちになれる作品です。
また、彼は日本映画の巨匠、小津安二郎を敬愛しており、小津監督初のカラー作品『彼岸花』で何度も登場する「赤いヤカン」に強烈な印象を受けたことから、彼の作品には毎回「赤」が印象的に使われており、『過去のない男』でも頻繁に登場します。

パルム・ドッグって何?

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出典:http://blog.goo.ne.jp/
パルムドッグ賞を受賞したタハティ(役名・ハンニバル)

最後に微笑ましい話題をひとつ。パルム・ドールはカンヌ映画祭の最高賞ですが、パルム・ドッグ賞をご存知でしょうか?これは、映画で優秀な演技をした「犬」に贈られる最高賞として2001年にスタートした賞で、『過去のない男』にハンニバル役で出演したタハティ君が見事に受賞しました。ちなみに、賞品は「PALM DOG」と記された革製の首輪だそうです。