推せるジブリ男子!“本庄”に注目して観る『風立ちぬ』

レコメンド

「マンネリズムだ。大学の講義と同じだ。」

本庄が最初に画面に姿を現すのは関東大震災直後、二郎がヒロインの菜穂子と彼女の女中であるおきぬを助け、大学へやってくるシーンです。火の手が回る校舎から本を持ち出す作業をしていた本庄は一服するために二郎から煙草をもらい、火をつけてもらいます。この動作ひとつでふたりの関係性が観客にも伝わる名シーンであり、ヘビースモーカーの本庄らしい初登場シーンでもあります。煙草をふかしていると風向きが変わり、ふたりは持ち出した本にふりかかる火の粉を必死に払いのけることになります。

そして地震から2年が経ち、東京の復興が進む中、大学の講義の後に連れ立って昼食を食べにいくふたりのシーンが描かれています。どうやら行きつけの店らしい食堂へやってきた本庄と二郎。二郎は注文した鯖を食べます。そこでの会話に注目します。

本庄「二郎、また鯖か。」
二郎「鯖はうまいよ。」
本庄「マンネリズムだ。大学の講義と同じだ。列強はジュラルミンの時代になってるんだ。たまには肉豆腐でも食え。俺たちは10年以上遅れてるぞ。」

本庄は肉豆腐をほおばり、二郎は鯖の骨を見つめて微笑みます。

本庄「なんだ?」
二郎「美しいだろう?素晴らしい曲線だと思わないか?」

身を食べてすっかりきれいになった鯖の骨の1本を本庄に見せる二郎。本庄はそんな二郎に、骨を見るために鯖を食ってるのかとあきれ気味です。この食堂での短い会話は、二郎と本庄それぞれの性格をよく表し、普段からふたりで食堂に通ってはこんなやりとりをしてきたのだろうと想像させるシーンです。

この後、大学の休み時間を過ごす場面で、二郎は机に向かって熱心に曲線を書いています。そんな二郎の様子に興味深げな学友を尻目に、いつものことだと言わんばかりに本庄は読書に没頭しているようです。食堂での自身の考えを歯に衣着せぬ言葉で投げかける様子や、物事に熱中し始めた二郎のことは放っとくといった扱いなれた様子から、彼らの仲が一朝一夕のものではなく、またただの馴れ合いではない良い距離感を保った関係であるということが映画序盤から印象付けられていますね。