手塚治虫「ブラック・ジャック」の名言&感動エピソード

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無免許医ながら天才的な技術で多くの命を救うブラック・ジャック

「ブラック・ジャック」の感動エピソードのご紹介です。手塚治虫の代表作として、また医療マンガの代名詞としても有名な本作ですが、今回はその中でも特に人気の高い感動エピソード・5タイトルと、その名言をピックアップしました。

「死刑にするため助けたんじゃない!!」


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裁判所の傍聴席から命の意味を問い、叫ぶB・J

ニューヨークのスラム街。銃を持った警官たちに追われ、逃走する少年はビルの非常階段へ逃げ込み7階へと追い詰められます。観念した少年はそのまま投身自殺を図るのですが、脳死状態ながら一命を取り留めます。その容疑は父親殺しというスラムでは珍しくないものでしたが、駆けつけたニューヨーク警察のハリー警部は「少年なので生かして逮捕したい」と蘇生措置を要請します。

偶然、ニューヨークに滞在していたB・Jの元へ手術の依頼が来るものの彼は関わりを避け、断ります。次に世界的な外科手術の権威である大学教授「ゲーブル」に白羽の矢が立ち、一旦は断った彼もアメリカ中のメディアが注目しているという言葉を聞き、引き受けるのでした。ホテルのロビーで偶然、顔を合わせた2人の医師。ゲーブルはB・Jを自身が最も軽蔑する人種として、辛辣な言葉を投げかけます。

そして手術は始まりますが、少年の心臓は脳波とともに停止してしまいます。打つ手の無くなったゲーブルは苦悩の末、いいなりの礼金を払うので内密にという条件付きで、恥をしのんでB・Jに手術代行を依頼します。それは自身の名誉に傷を付けたくないという一心からでした。

手術は無事成功し、少年は裁判所へ出廷できるまでに回復しました。しかし、陪審員たちが下した判決は有罪、裁判官は少年に死刑を宣告します。泣き崩れる少年を前に、傍聴席からB・Jは「なぜあのまま死なせてやれなかった!?」と叫び、退廷を促されてしまいます。

死刑執行の直前、少年は神父に「裁判のときにどなった人は誰ですか?」と尋ね、B・Jの名を知らされます。そして、最期の言葉としてB・Jへの感謝の念を伝えるのでした。

手塚治虫漫画全集「ブラック・ジャック」第2巻 第2話 二度死んだ少年
初出:週刊少年チャンピオン1974年4月8日号

「それでも私は人をなおすんだっ 自分が生きるために!!」


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互いの価値観がどちらが正しいと思うか?と言い残し、去るキリコ

ピノコを連れて新幹線のホームを歩くB・Jは、ある男の姿に気付き、後を追います。男の名は「ドクター・キリコ」。B・Jとは旧知の仲ですが、回復の見込みがない患者を法に触れない形で安楽死させるという、彼と真逆のポリシーを持った医師です。

キリコは依頼人である女性の入院先へ訪れます。2年前の交通事故で背骨を骨折、それから全身麻痺で寝たきりのままという彼女は、医師の会話から一生涯、身動きができないという事実を知ってしまいます。収入のほとんどを入院費に充て、看病を続ける2人の子どもたちに、これ以上の苦労はかけたくないと、自身の生命保険から報酬を用意、キリコへ依頼したのでした。

その頃、若い兄妹がB・Jの元を訪れていました。2人はキリコの依頼人である女性の子どもたちであり、母親を回復させるための手術を依頼するために来ていたのです。

オペ当日の夜、先に病院へ到着したキリコは依頼人に時刻である旨を告げます。苦痛を感じることなく、自然死を装えるという装置を取り付け、作動させるキリコ。そこへオペのために訪れたB・Jが事態を悟り、装置を取り外します。商売の邪魔をするなと詰め寄るキリコ、B・Jは報酬をベッドに置き、オペが失敗したらキリコ、成功すれば自分が受け取ると告げ、手術室へと向かいます。手術中、「どうしてこんなむごいものを考えつくのか?」と問いかける依頼人の息子に対してキリコは答えます。軍医の経験から、助かる見込みの患者を無理に生きながらさせる方が残酷であると…。やがてオペは終了、成功を告げるB・Jの言葉に喜ぶ兄妹を見てキリコは去って行くのでした。

後日、ある寺の境内で再びB・Jとキリコは顔を合わせます。「無駄足だったな」というB・Jの言葉に、これからもポリシーを変えるつもりはないと返すキリコ。その時、病院関係者が慌ただしく駆けつけ、衝撃的な事実を伝えます。それは、病院車とトラックが衝突し、依頼人は親子もろとも死亡したというものでした。

B・Jは無念の表情を浮かべながら、高笑いしながら去ってゆくキリコに、これからも自分が生きるために人を治し続けることを叫び、物語は幕を閉じます。

手塚治虫漫画全集「ブラック・ジャック」第4巻 第1話 ふたりの黒い医者
初出:週刊少年チャンピオン1975年1月6日号

「いや……歩こう…… おいで、洋子」


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動物、特に猫好きの人は感涙必至の人気エピソード

ある大雪の夜、B・Jは奇妙な依頼の電話を受けます。子どもが鉛筆を飲み込んだと聞き、内科医を勧めるB・Jに診てもらえれば五千万円でも六千万円でも払うと言うのです。興味を持ったB・Jは患者の元へ訪れますが、彼を出迎えたのは一匹のメスの猫でした。ほどなく依頼人が現れ、患者の元へ案内されますが、彼がマモルと呼ぶ14歳の息子はどう見ても猫にしか見えません。自分をイヌネコ病院とでも勘違いしたのかと抗議するB・Jに対し、依頼人は侮辱だと激しく怒り彼を追い返します。そしてB・Jは近隣の病院に訪れ、医師に事情を尋ねるのですが、その真相は意外なものでした。

依頼人の名は「庄造」。がけ下に建つ家で家族4人で暮らしていたところ、ある日、大雪でがけ崩れが発生し、妻と2人の子どもを亡くしてしまいます。そして庄造自身も頭を強打し、精神に異常をきたしてしまったのです。土地会社から補償金と慰謝料が支払われ、家も建て直されたのですが彼は妻子の死を理解出来ず、ずっと帰りを待ち続けていました。

そんなある日、ノラ猫の親子が家の軒下に住み着きます。それを見た庄造は妻子が帰って来たと思い込み、猫もまたその愛情を感じ取り、生活を共にするようになったのでした。
妻である親猫「洋子」と、子猫たちとの幸せな日々を送っていた庄造でしたが、ある日、異変が起こります。事故で頭を強打した際、脳底にできた血腫がだんだんと大きくなり、このままでは命に関わることが分かったのです。

B・Jは息子の手術をすると偽り、庄造を入院させ難手術へ踏み切ります。手術中も「洋子」は彼の身を案じ、手術室のドアをガリガリと引っ掻き続けます。そして手術は成功、血腫は除去され庄造は正気を取り戻します。そして愛する妻子の死を知らされ、涙する庄造の元へ嬉しそうにすり寄る「洋子」でしたが、彼は「うすぎたないネコ」だと追い払ってしまいます。手術の成功と同時に、家族として暮らしていた幸せな記憶は消えてしまったのでした。

悲しい思い出のある土地からは離れたい、そう言って去って行く庄造に何度追い払ってもついてくる「洋子」と2匹の子猫たち。やがてバスが来て乗り込もうとする庄造に、乗務員は乗車するのかしないのかとせかします。自分を悲しそうに見つめる「洋子」の姿を見て考える彼は、「いや…歩こう……」とバスを見送ります。そして「おいで洋子」と呼んで、「家族4人」で旅立って行くのでした。

手塚治虫漫画全集「ブラック・ジャック」第7巻 第2話 ネコと庄造と
初出:週刊少年チャンピオン1975年2月24日号