手塚治虫「ブラック・ジャック」の名言&感動エピソード

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「おまえさんには家族がついてるんだ」


出典:http://ameblo.jp/

とある農場で幸せそうに暮らす「ラブロ家」の元へ父親が帰宅するシーンから物語は始まります。街がテロ騒ぎで取引が延期になったと語る父親の話を聞きながら、食事をする家族に一本の電話が入ります。その内容は父親のカバンへ手違いで爆弾を入れてしまったという、テロリストからの連絡でした。電話を受けた娘は誰なのかと問いかけますが、通話の相手は「私はブラック・ジ…いやそんなことはいい、とにかくカバンをあけると爆発する」と告げた瞬間、娘の弟がお土産を出そうと父親のカバンをあけ、家屋は爆発、家族もろとも吹き飛んでしまいます。

やがて一人だけ命を取り留めた娘はB・Jの元へ入院し、徐々に回復してゆくのですが、ピノコから「ブラック・ジャック」という名を聞き、衝撃を受けるのでした。自分の家族を惨殺したB・Jを許せない彼女は、治療やリハビリの最中でも常にB・Jを襲おうとします。メスを握る彼女に対して、自分を狙うのなら少なくとも全快しなければダメだと語るB・J、そしてそんな姿を見たピノコは「本当に爆弾犯人なのか」と問いかけます。しかしB・Jは質問には答えず、「家族を失って生きる気力を失いかけている彼女を支えているのは、自分への復讐心だけだ。その気持ちだけが、彼女に生きる努力をさせている」と語ります。

やがて視力以外は回復した彼女は退院し、立て直された自宅へと戻ります。送ってもらう車中で自分を殺すのなら今が最後のチャンスだと言うB・Jに対し、彼女は自分を回復させてくれた恩人を今さら殺せないと苦悩します。そして久しぶりに自宅へと帰った彼女にB・Jは真実を話し始めます。

娘の治療と回復を請け負ったのはテロリストからの依頼であったこと、そしてテロリストは無差別ではなく信念を持った活動を信条としており、責任を感じ、治療費や家の建築費用などはそこから提供されたこと、そしてもちろん電話などはしておらず自分は爆弾とは無関係であること…。これで無罪放免と去って行こうとするB・Jに、娘は別れたくない、ひとりぼっちにする気?と追いすがります。それに対し、B・Jは「おまえさんには家族がついてるんだ」と、今は亡き家族たちの臓器や器官が移植されていることを教えられます。そして、B・Jが去った後、ラジオのニュースでテロリストが銃撃戦の上、全員射殺されたことと主犯の名前が「ブラック・ジェード」であることを知るのでした。

時は流れ、庭の手入れをしながら近所の住民と談笑する彼女は、目が不自由ながらも一人での生活にも慣れた様子です。そして家族から受け継いだ身体を愛おしそうに撫でながら「ママどうぞ」「パパ 今かんでるのよ」「おちびちゃんどう?おいしい?よく味わってね」と、語りかけ食事を楽しみます。窓の外では小鳥たちが、かつてと同じ幸せな家族の食事風景を眺めていました。

手塚治虫漫画全集「ブラック・ジャック」第7巻 第9話 復しゅうこそわが命
初出:週刊少年チャンピオン1979年1月22日・29日号

 

「それを聞きたかった」


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ある夏の日、B・Jは車がエンストして困っているという家族に声をかけられ、家まで乗せて行きます。車中で父親らしき男性から、その服装からブラック・ジャックというお医者様では?と尋ねられます。男性によると、母親から日本には名医が二人いると聞かされており、一人がB・J、そしてもう一人は甚大先生だと言います。お礼に冷たいものでもと招かれた家には男性の母親であるおばあちゃんがいました。話とは裏腹に、B・Jへ失礼な言葉を投げかけるおばあちゃんは、お金に細かい様子で、事あるごとに小遣いをせびります。B・Jが帰った後には嫁姑の口論が始まり、男性の妻はあまりにもがめつい姑に生活費にも限りがあると嘆きます。しかも手元にお金はほとんど残っておらず、息子も何に使っているのか見当がつきません。

B・Jは話に出た「甚大」という医師に興味を持ち、知人に電話で尋ねたところ、名医だが法外な診療費を取るという自分に似た人物であることと、すでに20年前に亡くなっていることが分かります。興味を惹かれたB・Jはかつて甚大が開業していた医院を訪ね、妻である老婦人と面会します。そして詳しい話を聞くほど自分に似ていると親近感を感じるのでした。

同じ頃、男性宅ではまたお金の問題で嫁姑が口論を始め、それに辟易した男性はおばあちゃんに小遣いを渡します。ほどなくして外出するおばあちゃん、その行き先を確かめるべく男性は後をつけて行きます。行き先はかつての甚大の診療所でした。おばあちゃんは甚大の妻へお金を渡し、たしかこれで最終回のお支払いですねと確認、やっと肩の荷が下りたと安堵します。話を聞くと、おばあちゃんの息子は30年前に死亡率の高い難病を患い、それを救ったのが甚大医師だったといいます。しかし、治療費として請求された金額は1,200万円という法外なものでした。

母親であるおばあちゃんは、息子が助かるのなら一生かかっても払うと約束し、貯金はおろか身の回りの品もほとんど売り払い、不足分は血の出るような内職で賄うといった生活を続け、毎月治療費を届けていたのです。「甚大」の死後、支払いはもう不要という妻の言葉にも「これまでの努力を無駄にしたくない」と頑に支払いを続けるおばあちゃん。最近は外出もせず、息子夫婦からの小遣いを支払いに充てていたのです。それを外で立ち聞きしていた息子は号泣し、母親の後を追うのですが、その先にはおばあちゃんが倒れていました。最後の支払いが終わり、気が緩んだのか脳溢血を起こしていたのです。

慌てて駆けつけたB・Jは、まだ設備が残されている診療所へおばあちゃんを運び、治療を願う息子に言い放ちます。「90パーセント生命の保証はない、だがもし助かったら三千万円を請求するが…」と。息子は驚きつつも「一生かかってもどんなことをしても払います!」と即答します。B・Jは「それを聞きたかった」と返し、オペを開始するのでした。

手塚治虫漫画全集「ブラック・ジャック」第10巻 第10話 おばあちゃん
初出:週刊少年チャンピオン1975年9月8日号


出典:http://tezukaosamu.net/

その知名度や発行部数、メディア展開などから名実ともに手塚治虫の代表作と言える「ブラック・ジャック」ですが、連載当初は出版社である秋田書店側の期待は低かったそうです。

当時の週刊少年チャンピオン編集長だった故・壁村耐三氏は手塚治虫の最後の花道を飾るような意味合いで一話完結型の執筆を依頼、4〜5回程度で終了する予定でしたが、アンケートで徐々に人気は上昇、結果的に10年に渡る長期連載となりました。

また常に複数の連載を抱える多忙さから、本作に関する逸話は数多く、「ブラック・ジャック創作秘話」として週刊少年チャンピオンに不定期連載され、全5巻が発売されました。こちらもチェックしてから読むと、また新たな発見があるかもしれません。

 

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